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最期を前に、揺れる父の胸中
佐藤和夫さん(仮名/75歳)は、がんの末期と診断され、医師から「余命半年」という言葉を告げられていました。
和夫さんは地元の老舗の呉服店を継ぎ、息子の拓海さん(仮名)に店の経営は任せてからは、妻と年金生活を送っていました。しかし、がんに罹り複数箇所に転移がみつかってからは入退院を繰り返す毎日となっていたのです。
体は日に日に弱っていきます。それでも和夫さんには、どうしても心に残っているひとつの「心残り」がありました。
ある日、もう自分では自由に動くこともできなくなった和夫さんは息子の拓海さんにこう頼みました。
「お母さんには内緒にしてほしいのだが、次の病院の帰りに弁護士事務所に行ってほしいんだ」
母に内緒で弁護士事務所へ――。その要望に拓海さんは疑問を持ちながらも、父に付き添い、こっそりと地元の弁護士事務所を訪れました。
そして、和夫さんはついに、長年胸に秘めてきた“真実”を弁護士の前で語りはじめたのです。
若き日の後悔
和夫さんは、若いころの話をゆっくりと語り出しました。
20代のころ、学生時代に交際していた半場留美子さん(仮名/本名と文字数は同じ)とのあいだに子どもを授かり、真剣に結婚を考えていた時期があったといいます。しかし、世間体を気にした親の強い反対に遭い、結婚は認めてもらえず、留美子さんは泣く泣く中絶したそうです。そのまま2人は別れ、和夫さんは家族の意向に従うしかありませんでした。
「ずっと、心に残っていた。あの人にも、申し訳なくて……」
若いころに加入した生命保険を手にしたとき、和夫さんは、「もしものときには彼女へ少しでも渡したい」と思ったといいます。しかし、保険証券の裏書欄にある受取人を「半場留美子」の名前に変更する申請はできませんでした。妻に隠してまで他人の女性の名前を書く勇気はなく、生命保険会社に相談しても、家族以外の名前を受取人にするには相応の理由が必要だったからです。
あれから50年、ずっといえないまま、人生を終えようとしていたのでした。
「最後くらい償いがしたい。生きているなら、少しでもいいからお金を渡して、ちゃんと謝りたって感謝を伝えたい」
その言葉を聞いた拓海さんは複雑な気持ちでしたが、父の最期の願いなら叶えてあげたいと考え、探偵事務所に依頼して女性の行方を追いました。結果、遠く離れた地方でひっそりと暮らしていることが判明。夫とは死別し、子どもも独立して現在は一人暮らしとのことでした。
和夫さんは弁護士に遺言作成を依頼し、自分のわずかな資産の一部を女性に渡したいと伝えました。そして数週間後、家族に見守られながら、静かに息を引き取ったのです。

