後継者不足が深刻化するなか、日本の中小企業では「事業承継」が喫緊の課題となっています。こうした状況を受け、経済産業省はM&Aを活用した事業承継の支援に本格的に乗り出しています。では、なぜ国は地方の中小企業を救おうとしているのでしょうか。その背景と、M&Aによって期待される効果について、公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。
給与が上がらない背景にある「生産性の低さ」
日本の平均給与が長年にわたって横ばいである理由として、しばしば物価や労働環境が話題にされますが、実はその根本的な原因は「生産性の低さ」にあると指摘されています。経済協力開発機構(OECD)などの国際的な統計を見ても、日本の1人当たりGDPは先進国のなかでも決して高くない水準です。
「1人当たりGDP」は、単に国の経済規模を示すだけでなく、働く個人がどれだけの付加価値を生み出しているかを測る重要な指標であり、企業が従業員にどれだけの給与を支払えるかの裏づけでもあります。
つまり、個々の企業がより高い付加価値を生み出さない限り、国全体の所得水準を押し上げることは難しいのです。
企業の「規模」が大きくなれば、生産性は上がる
では、生産性をどうやって高めていけばよいのでしょうか。その答えのひとつとなるのが、「規模の経済」です。これは、企業が一定以上の規模を持つことで、製品やサービス1つあたりの固定費が削減され、全体の利益率が高くなるという考え方です。
たとえば、バックオフィスの管理コストや営業、マーケティングにかかる費用などは、企業規模が大きくなるほど相対的に効率化されていきます。
また、国際的にも中小企業の比率が高い国ほど生産性が低いという傾向が見られます。これは、業務の非効率性や設備投資の難しさ、優秀な人材の確保の困難さなど、さまざまな構造的要因が重なっているためです。
日本はまさに、そうした課題を抱える国の代表格であり、経済産業省もこの点を問題視しているのです。
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループなどに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継とM&A実務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。
WEBサイト https://kinyu-chukai.com/
著者登壇セミナー:https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=142
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