中小企業の事業承継に国が関与するワケ
日本の中小企業にとって、事業承継は喫緊の課題です。少子高齢化が進み、多くの経営者が引退を考え始める一方で、後継者不足が深刻となっています。
特に地方の中小企業では、次の世代に経営をバトンタッチできないまま廃業を余儀なくされるケースも少なくありません。このような問題が広がれば、地域の経済基盤そのものが揺らぎかねないという危機感が高まっています。
こうした状況のなかで、経済産業省はM&Aを活用した事業承継の推進に本腰を入れています。これは、企業を単純に存続させることにとどまらず、経済全体の活力維持と構造的な課題解決、さらには地域の雇用維持と所得向上という多面的な効果を見込んでの政策です。
M&Aは一企業のみならず“地域経済そのもの”を守る
中小企業が廃業すれば、当然ながらその企業に勤めていた従業員の雇用が失われることになります。特に地方においてはその打撃が大きく、単なる一企業の問題にとどまらず、地域経済の衰退や人口流出の加速といった副次的な問題にもつながっていきます。
従業員にとっては生活の安定が失われ、企業にとっては人材流出によって産業競争力がさらに弱まる悪循環を生み出します。
一方で、現代の日本社会では人手不足が深刻化しており、求人を出しても人材が集まりにくいという実情があります。このため、「仮に廃業しても、従業員は他の企業に移ることができるのではないか」という意見も一部にはあります。
しかし、このような楽観論には限界があります。特に地域によっては雇用の受け皿が十分でない場合も多く、M&Aによって事業を存続させることは、単なる雇用の維持ではなく、地域経済そのものを守る重要な手段でもあります。
