汚職問題が経済成長を圧迫、目標達成に黄信号
フィリピン経済は、政府が設定した2025年通年の実質国内総生産(GDP)成長率目標(5.5%〜6.5%)の下限達成が極めて困難な状況にあると、複数のアナリストが指摘しています。特に、インフラプロジェクトを巡る汚職スキャンダルの拡大が、政府支出と投資家心理(センチメント)を著しく冷え込ませ、経済成長の足かせとなる主要因となっています。アナリストは、政府の経済チームに対し、早急な成長目標の引き下げを検討するよう提言しています。
第三四半期のGDP成長率は4.0%に急減速しました。これは第二四半期の5.5%から大幅に鈍化し、パンデミック初期(2021年第一四半期)の落ち込みを除けば、2011年第三四半期以来の低い伸びとなりました。この結果、年初来9ヵ月間の平均成長率は5.0%に留まり、前年の5.9%を下回りました。この第三四半期の低迷は、汚職スキャンダルによる公共建設の停滞と、それに伴う消費者・投資家心理の悪化が主因です。
この状況下、目標下限の5.5%を達成するには第四四半期に6.9%の成長が必要と試算されますが、多くのアナリストはその達成を非現実的と見ています。ING銀行のアナリストは、政府支出の停滞が短期的な財政支出に留まらず、企業や民間部門の心理を長期的に抑制する可能性を警告しています。GDPの7割超を占める家計消費支出も、第三四半期は4.1%増と、前期の5.3%増から減速しました。また、投資項目である総資本形成は2.8%のマイナス成長となり、投資の弱さが際立っています。
一方、明るい兆しとして、サービス輸出が四半期比2.4%回復した点が挙げられます。しかし、Capital Economicsなどは、高まる不確実性や汚職への懸念が新規投資の実行を妨げ、経済活動の停滞が2026年まで続く可能性を指摘しています。
こうした経済見通しの弱さを受け、フィリピン中央銀行(BSP)には金融緩和を継続する余地が生まれています。アナリストは、経済成長の鈍化とインフレの緩和傾向が、12月11日の会合における25ベーシスポイント(bp)の利下げ観測を裏付けていると見ています。BSP総裁は、汚職問題で投資家心理が冷え込む中、内需を支えるべく、来年にかけて更なる金融緩和を行う方針を示唆しています。
現在のフィリピン経済は、汚職スキャンダルとそれに伴う公共投資の遅延という国内要因により、成長の勢いを大きく失っています。目標達成が困難な中、今後は金融政策による下支えに加え、政府が汚職問題を収束させ、民間部門の信頼を回復できるかが景気回復の鍵となります。この経済減速が一時的なものか、あるいは構造的な問題の表れか、今後の動向が注目されます。
一方で、こうしたマクロ経済の不透明感とは対照的に、民間部門では長期的な成長に向けた動きが活発化しています。
