国税の士気と監視機能の衰え
税務調査で最も重要な工程は「選定」――つまり、誰を調査するかを見抜く力です。これは経験と直感がものを言う職人技の世界ですが、ベテラン職員の人材育成は停滞しています。
かつて出世の“勲章”であった斡旋制度が失われたことで、職員のモチベーションも大きく低下しました。「署長になっても責任ばかりが重く、待遇は変わらない」――そんな声が現場から上がるなか、「調査は二の次で良い。とにかく問題を起こすな」という指揮官も現れ、国税の監視力は徐々に弱まっています。
正直者が損をする社会になる?
国税の力が弱まれば、得をするのは正直でない者たちです。
脱税を指南する者、租税回避を巧妙に設計する者が暗躍し、真面目に納税するサラリーマンや中小企業に負担がしわ寄せされる。1,000兆円を超える国家債務を抱えるなかで、税収が不足すれば、最後にツケを払うのは“正直な納税者”です。
脱税や租税回避を熟知したまま国税を去った人材を「裸同然で追い出した」ツケは、いま制度疲労として表面化しています。
「透明性」と「士気」の再構築を
租税回避スキーム開示義務が見送られ、国税OB斡旋制度も廃止された現在、国税行政には「適正申告を監視する機能の空白」が生じています。
論功行賞の透明性の確保と国税調査官の士気回復という、二つの課題をどう再構築するか。それを怠れば、申告納税制度の崩壊――つまり「正直者が損をする社会」への転落は、もはや時間の問題です。
*本記事は『国税調査トクチョウ班』(法令出版)のコラムをリライトしたものです。
上田 二郎
元国税査察官/税理士
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