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支出の期間が長くなる「長生き」
「私だけ、健康だったばっかりに、みんな先に逝っちゃって、気力も湧いてこない。もちろん長生きはいいこと。ずっとそう信じてきたし、贅沢な悩みよね。そもそも、なにに備えればいいのか、順番がわからないのよ」
ハルさんの問いは、本質をついています。年金という確定的な収入に対して、支出がどの程度の幅をもつのか。可視化しなければ、安心は得られません。
単身高齢世帯の家計は固定費の比率が高く、削減が難しい傾向にあります。特に住まいと光熱費は、小さな習慣の積み重ねでようやく効いてくる性質の支出です。さらに医療・介護は年単位で波があり、ゼロの月もあれば、突発的に数万円単位が発生します。平均値だけを頼りにしても、実際の暮らしでは標準偏差の大きさに打たれるでしょう。生活設計は、平均値ではなく、揺らぎへの耐性で組むべきです。
「みんな、投資とかしたほうがいいのかしら」
「投資は手段です。80代の設計の優先順位は、流動性、可用性、単純さの3点になります。利回りの高さより、必要な時に確実に現金化できること。手続きが簡単で、代理が利くこと。ここが要です」
年金は手取りで入金されますが、見落としがちな支出として、介護保険料や住民税の負担があります。住民税が非課税となる水準にいれば、医療費や公共料金、福祉サービスで軽減が受けられる場合があり、現金収支に効くでしょう。
また、年金生活者支援給付金の対象かどうかを確認するだけで、月千円台でも積み上がれば年間で確かな差になります。こうした制度の可否の判定は、所得控除や医療費控除の申告の有無で変動します。つまり、確定申告をしないことで、手に入る軽減まで取り逃すことがあるのです。
「申告って、難しそうね」
「大丈夫です。レシートを月ごとに封筒に入れておく。病院と薬局の明細は同じ封筒にまとめる。年に1回、私と一緒に見直しましょう。やることは、増やさず、続けられる形に」
孤独の問題は、家計にも伝播します。見守りがないと、小さな不具合を先送りし、結果的に高くつくことも。逆に、人との接点があると、無料や低額の支援情報が回ってきます。地域包括支援センター、社会福祉協議会、シルバー人材センター、自治体の見守り登録、電力ガスの割引やポイントの付与。情報は歩いてくるのではなく、人づてでやってきます。孤独を防ぐことは、感情の問題であると同時に、コストの問題でもあります。
