ゆっくり準備する「老後の再設計」
「じゃあ、なにから始めるの?」
筆者は、机の上に白いメモ紙を置きました。区切りをつけた4つの箱に、順番を書き込んでいきます。
1.お金の棚卸し
口座は年金の受取口座に集約し、サブ口座は解約。通帳は1冊にして、毎月末の残高を赤ペンで丸。現金クッションは生活費3ヵ月分を下回らないよう、当面は17万円を25万円へ。
方法は単純です。不要な定期や自動積立を停止し、過去の定期や共済の満期照会をかける。眠っている小口の資産を現金に戻します。投資商品は新規購入を原則止め、既存は解約期限と手数料を確認。80代の資産設計は、利回りより「必要な時に確実に現金化できること」を優先します。
2.住まいと固定費
家賃4万2,000円は収入比率が高すぎます。いきなりの転居ではなく、まず「選択肢」を数字で並べましょう。
選択肢A:同一エリアの低層階・設備簡素な物件へ更新期に合わせて移る。更新料と引越費用の損益分岐を試算。
選択肢B:娘の最寄り駅圏へ移り、通院と買い物の動線を短縮。交通費と見守りの安心を費用換算。
選択肢C:現住のまま、家賃交渉と火災保険の見直し、電力ガスの料金プラン変更で年間1万円以上の固定費圧縮を狙う。
光熱費は、契約アンペアの引き下げ、給湯温度の標準化、冷蔵庫と照明の買い替え損益分岐を出します。古い冷蔵庫は、買い替えで電気代が下がる分、数年でもとが取れることもあります。
3.制度の活用
年金生活者支援給付金の適用可否、介護保険の総合事業、見守りセンサーの助成、公共料金の割引、シルバー人材センターの就業など、使える制度を一覧表にします。
「働けるかしら」
「週1回、2時間でも大丈夫です。配布物の仕分けや花壇の手入れなど、体に負担の少ない仕事があります。月5,000円の収入は、数字以上に自信を取り戻します」
医療費控除は、年間10万円の壁だけをみないで、住民税非課税の判定に効く軽減も一緒に見ます。還付は遅れても入ってきます。長生き家計では、遅れて届くお金の存在が、心理的な支えになります。
4.孤独の解消
孤独は、設計で軽減できます。週1回の卓球を、まずは月2回に。地域包括支援センターに登録し、ケアマネジャーの顔を知る。娘の連絡先カードを財布に。さらに、遺言、任意後見、死後事務委任の3点セットを準備し、金融機関の届出印と連絡先を整える。これらはお金を守るためだけではありません。安心して今日の食事を味わうための、背景の仕組みです。
「こんなに、やることがあるのね」
「はい。でも、やるのは全部ではありません。今月はこれだけです」
筆者は、今月のタスクに四角い印をつけました。
□ 口座の集約
□ 電力の契約見直し
□ 地域包括での登録
□ レシート封筒の準備
「来月は、家賃の選択肢の下見を1件だけ。それと、年金の給付金の可否確認を一緒に」
ハルさんは笑っていいました。
「できそうな気がしてきたわ。長生きって、ゆっくり準備する時間があるってことでもあるのね」
長生きリスクの本質は、収入の一点集中と支出の長期化、そして孤独です。解決は派手ではありません。通帳を1冊に、固定費を1つずつ、制度を1枚の表に、人との接点を1回ずつ増やす。この小さな積み上げが、残高17万円の鼓動を安定させます。健康は資産です。だからこそ、それを生かすための暮らしの設計を、数字と段取りで整えていきましょう。ファイナンシャルプランナーとしてお伝えしたいのは、今日始める最小の一歩が、最も大きな安心に化けるという事実です。
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー
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