あんなに元気だったのに…
「母はもともと、本当に元気な人だったんです」
そう話すのは、東京都内で働く会社員の佐藤健一さん(仮名/52歳)。母の和子さん(仮名/78歳)は地方都市で一人暮らしをしていました。年金収入は月9万円ほど。非課税世帯です。限られた老後資金のなかで、慎ましくも自立した生活を送っていました。
朝は決まった時間に起き、自分で朝食を用意。昼前には近所のスーパーまで歩いて買い物に出かけ、夕方には顔なじみの人と立ち話。健一さんからみれば、「年齢の割にしっかりしている母」だったのです。
その生活が変わったのは、和子さんが自宅で転倒し、骨折をしたことがきっかけでした。
「もし次に転んだら……そう考えると、もう一人では無理なんじゃないかって」
健一さんは兄弟で相談し、介護付き有料老人ホームへの入居を決めました。月額費用は約18万円。母の年金では到底まかなえず、差額は子どもたちが負担する形でしたが、「安全には代えられない」という思いが勝りました。
入居初日、和子さんは静かにいったそうです。「こんなところに入れてもらって、ありがたいね」その言葉に、健一さんは胸をなで下ろしました。これで一安心だ、と。
ところが数ヵ月後、面会に訪れた健一さんは、違和感を覚えます。母の足取りが遅くなり、表情が乏しくなっていたのです。
「最近、どう?」と聞くと、和子さんは少し考えてから答えました。
「ごはん食べて、テレビ観て……それだけかな」
