「無理のない範囲で支えていこう」と決意した瞬間
智咲さんは胸が締めつけられる思いでした。自分の転職やキャリアアップのことで頭がいっぱいで、両親の暮らしを気にかける余裕なんてなかった。けれど、こうして改めて目の当たりにすると、両親の老いも生活の変化も、ずっと見過ごしてきたことに気づかされました。
それでも、突然の帰省を両親は心から喜んでくれました。父は庭で採れたナスやピーマンを使って煮びたしを作り、母は久しぶりに智咲さんの好物の卵焼きを焼いてくれました。朝食に出てくるネギが多めの納豆も母の味でした。
「仕事、大変なんでしょう?」「体、壊さないでね」――年老いた両親の優しさに触れ、涙が出そうになりました。
智咲さんは一人娘。地元の名門女子校を卒業後、東京の大学に進学。両親にとっては自慢の娘であり、教育にはお金も手間も惜しまなかったといいます。
「親には本当に感謝している。でも、これまで自分のことばかりで……」
智咲さんはその夜、実家の布団の中で涙を流しました。
翌朝、庭に出て朝日を浴びながら、智咲さんはふと思いました。
「これからどうやって両親を支えていけるだろうか?」
ふと、頭に浮かんだのは高校時代の同級生の顔でした。そういえば、高校の同級生でファイナンシャルプランナー(FP)として独立した友人がいた――。
「彼女なら、両親の年金や生活設計のこと、相談に乗ってくれるかもしれない」
帰りの新幹線の中で、智咲さんはその同級生にメッセージを送りました。
「久しぶり! 実家のことで少し相談したいことがあるの」
すぐに返ってきた返信は、「もちろん。落ち着いたら話そう!」という温かい言葉でした。
「とはいえ、無理のない範囲でというのは決めています」智咲さんはそう言います。もともと真面目で責任感が強く、何事も自分で抱え込んでしまう性格。今回の転職でも、つい頑張りすぎてヘトヘトになっていたのです。
「周りやプロに頼りながら、お互い共倒れにならないように支え合っていきたい」と、今は穏やかな口調で話します。
そして、東京に戻った智咲さんは、今後は定期的に帰省し、家の修繕や生活のことも一緒に考えていこうと決めました。
智咲さんにとって、今回の帰省は単なる“休息”ではなく、自分の原点を思い出す時間になりました。育ててくれた両親に、これから少しずつ恩返しをしていく――。小さな決意を胸に、智咲さんはまた新しい日々へと歩き出しています。
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