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移住者が陥る「理想と現実」のギャップ
政府の地方創生関連資料(日本版CCRC構想を巡る状況)では、東京都在住の50代・60代の世代のなかに「地方に移住したい」と考える人が一定数存在すると報告されています。特に、60代では「地方への移住意向がある」と答える人が3割程度にのぼるのです。背景には、都心の物価高や老後のゆとり志向があると考えられます。
しかし、実際に地方へ移住した人のうち、およそ3割が「想定より生活費が高くついた」と回答している(内閣府『高齢者の地域生活に関する調査』2023)ことも見逃せません。
村上夫妻の家計も例外ではありませんでした。年金は夫婦合わせて月22万円ですが、光熱費と車の維持費、医療費でほとんどが消えるため、住宅購入から残った貯蓄を取り崩す月も。
「家庭菜園で食費を抑えよう」と始めた畑は、夏の猛暑でほとんど枯れてしまい、逆に水道代が膨らみました。
「もう少し便利な場所にすればよかったんじゃないの?」娘がいうと、智恵子さんは小さく首を縦に振りました。
「ここに来る前はね、住宅展示場や雑誌をみて、『田舎暮らしって素敵』って思ってたの。でも現実は、草むしりも重労働。お風呂の手入れだって毎日やらなきゃいけないし、ある意味仕事みたいなものよ」
彼女の言葉は、多くの移住者が抱える現実そのものです。地方の戸建ては維持費がかかります。屋根の塗装や給湯器の交換など、10年単位で数十万円単位の出費が必要です。都市部のマンションのように、管理会社が一括で対応してくれるわけではありません。
さらに、高齢者の「移住孤立」も増えています。総務省の調査では、地方移住者のうち65歳以上の約4割が「近隣住民との交流が少ない」と回答。介護が必要になった際、支援体制が脆弱な地域も少なくありません。
移住を「第二の人生」と期待するあまり、「老後インフラ」を軽視してしまうことが、後悔を生む大きな要因なのです。
「後悔しない移住」の条件
娘が帰った夜、智恵子さんはぽつりとつぶやきました。
「娘に『異様』なんていわれるとは思わなかった。でも、ちょっとわかる気がするの。暮らしを楽しむつもりが、いつのまにか家に使われてるみたいで……」
ファイナンシャルプランナーとして、筆者はこうしたケースを数多くみてきました。「退職金で家を買って終わり」と考えてしまうと、生活の持続性が崩れます。家は資産であると同時に支出の発生源でもあります。
特に地方では、修繕や車の維持にかかるコストが年金生活に大きくのしかかります。たとえば、仮に年金収入が月22万円の家庭で、光熱費・食費・保険料などの生活費が月18万円とすると、年間の貯蓄余力はわずか48万円。そこに車検や屋根補修などの突発支出が発生すれば、数年で貯金は底をつきます。
長寿化が進むいま、90歳までの生活を想定すると、リタイア後の30年間で約700万円の修繕・維持費が必要になるとも試算されています。後悔しない移住のためには、お金に対する考え方を改めなければなりません。
1.「家」に使うお金は退職金の半分まで
住宅購入に全資金を注ぎ込むと、老後資金が枯渇します。残りの半分は、医療・介護・生活防衛資金として確保すべきです。
2.「便利さ」をお金で買うという発想を
公共交通や医療機関が近いエリアは地価が高めでも、将来の移動コスト・リスクを考えると長期的には合理的です。
3.「地域との接点」を数値で評価する
日常的に話せる知人が何人いるか、徒歩圏内に店があるか。これは金額以上に、暮らしの安心を左右します。
