「大公国」と「公国」が国名の国
英国は正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」と呼ばれます。一般にはイギリスまたは英国と呼ばれますが、オリンピックの選手が着用する国名は「GB(Great Britain、グレートブリテン)」です。
国名の違いとして注目されるのが、ルクセンブルク大公国と、リヒテンシュタイン公国、モナコ公国、アンドラ公国の表記です。「大公国(Grand Duchy)」と「公国(Principality)」という称号を持つ者が君主である国を指します。
ここでは称号の詳細には触れませんが、これらの国はいずれも軽課税国(タックスヘイブン)として知られています。特に、1人当たりのGDPランキングで1位のルクセンブルクに注目したいと思います。ちなみにアジア地域では、シンガポールが5位、マカオが9位、香港が21位、韓国が31位、日本は34位となっています。
世界第2位の鉄鋼メーカーの本社がルクセンブルクにある背景
ルクセンブルクはフランス、ベルギー、ドイツに隣接し、国土は神奈川県とほぼ同じ広さ、人口は約60万人です。EU加盟国で通貨はユーロを採用しています。
この国には、世界第2位の鉄鋼メーカーの本社があります。大株主は同社のCEOであるインドの資産家、ラクシュミー・ミッタル氏です。この立地の背景には、ルクセンブルクの持株会社税制などの優遇措置が影響していると考えられます。
ルクセンブルクの法人課税は2024年で、基本法人税率が17%ですが、失業基金付加税(法人税率の7%)とルクセンブルク市の地方事業税6.75%が加算され、実効税率は24.94%です。したがって、同国は軽課税国とはいえない面もあります。
持株会社税制の活用
ルクセンブルク税制の特徴のひとつに、持株会社に対する租税優遇措置があります。その代表例が、1929年7月31日制定の法律に適格な「1929年持株会社」です。この会社は法人課税が免除され、配当支払に対する源泉徴収も免除されます。ただし、資本金に対して0.2%の課税があります。
また、資産管理会社(SPF)は、個人資産を管理する投資会社で、法人課税、地方事業税、財産税のすべてが免除されます。さらに非居住者は、同社からの配当や株式譲渡益に課税されません。ただし、資本登録税として払込資本の0.25%(上限12万5,000ユーロ)が課されます。
さらに、課税は免除されませんが、資本参加免税を活用できる金融持株会社(Soparfi)も存在します。資本参加免税は、株式所有割合が10%以上、または出資額が120万ユーロ以上などの要件を満たす場合、子会社からの配当、株式譲渡益、源泉徴収が免除される制度です。
1929年持株会社制度の廃止
2006年7月19日、欧州委員会は1929年持株会社の税制がEU法に反する国家補助にあたると決定しました。これはOECDを中心とした有害な税競争廃止の流れを受け、各国が租税優遇措置による投資促進インセンティブを規制した結果です。
この決定により、1929年持株会社の課税上の特典は2010年末まで有効で、2006年7月以降、新規設立は認められなくなりました。
しかし、資産管理会社や金融持株会社制度は存続しており、1929年持株会社の多くは個人所有であることから、国際企業は金融持株会社を選択するケースが多いとみられます。結果として、ルクセンブルクでは海外からの資産運用に関する租税優遇措置が一定程度残っています。
ルクセンブルクは、小国ながら特殊な税制により富裕層や多国籍企業を引きつける存在です。歴史的な持株会社制度や資産管理会社、金融持株会社といった仕組みは、欧州委員会の規制を経てもなお、多くの資産運用に活用されています。
なお、日本とルクセンブルクの間の租税条約では、ルクセンブルクの持株会社に対する租税条約の適用は除外されています。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
