なぜ資産フライトは難しいのか──国外転出課税と国外財産調書で封じられる相続財産【国際税務の専門家が解説】

なぜ資産フライトは難しいのか──国外転出課税と国外財産調書で封じられる相続財産【国際税務の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

国内の相続財産を海外に移そうと考える人は少なくありません。しかし、現金や金の持ち出し、海外送金、国外財産の保有には、税務当局の厳格な監視と報告制度が存在します。国外転出時課税制度(出国税)、国外財産調書制度、さらに金融口座情報自動交換制度(CRS/AEOI)や暗号資産の報告義務により、資産を秘密裏に移すことは極めて困難です。『富裕層が知っておきたい世界の税制【大洋州、アジア・中東、アメリカ編】【カリブ海、欧州編】』を刊行した矢内一好氏が、相続財産の海外移転の難しさを解説します。

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現金・金の持ち出し規制

近年、国内での相続財産を海外に移転し、税負担を回避しようとする動きが一部で注目されています。しかし、実際には国内外の法規制が厳格化しており、簡単に財産を国外に持ち出すことは困難です。本記事では、現行制度や規制のポイントを整理します。

 

国内財産を手荷物として国外に持ち出す場合、外為法や関税法に基づき、現金・金の携帯には金額・重量制限があります。

 

・現金等の合計額が100万円相当額を超える場合

 

・金の地金(純度90%以上)の重量が1kgを超える場合

 

これらを超える場合、出国時・入国時に「支払手段等の携帯輸出・輸入申告書」を税関に提出する必要があります。

 

また、海外で金を購入して国内に持ち込む場合も、以下の規制があります。
 

・金地金(純度90%以上)1kg以上:税関への事前申告が必要

 

・金の価格が20万円以上(他の物品と合算):税関への事前申告が必要

 

申告を怠ったり虚偽の申告を行うと、外為法・関税法違反となり、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が科される可能性があります。

 

この規制は「国外への現金や金の持ち出しを禁止するもの」ではなく、不正資金の流出を監視することが目的です。

金融機関を通じた送金も把握される

◆国外送金等調書制度

平成9年(1997年)に設けられた国外送金等調書制度により、金融機関を通じた海外送金は税務当局に報告されます。平成21年(2009年)からは、100万円超の送金が対象となっています。

 

つまり、100万円を超える送金はすべて国税庁に把握され、秘匿は困難です。

◆国外転出時課税制度(出国税)

平成27年(2015年)に施行された国外転出時課税制度では、時価1億円以上の有価証券を所有する者が国外転出する場合、その含み益に対して所得税が課されます。

 

この制度の背景には、シンガポールや香港などの国では、株式売却益に課税されないため、日本居住者が海外に転出して課税を回避するケースがあったことがあります。制度導入により、含み益に対しても課税されるようになりました。

 

◆国外財産調書

12月31日時点で合計5,000万円超の国外財産を保有する居住者は、翌年3月15日までに税務署へ報告義務があります。

 

◆金融口座情報自動交換制度(AEOI)

平成30年(2018年)から日本も参加。海外金融口座情報が国税庁に自動で通知されます。これにより、国外に資産を移した場合でも、税務当局が把握する仕組みが整っています。

海外口座の開設も簡単ではない

仮に現金を国外に持ち出したとしても、各国で現金持込制限や銀行口座開設条件(永住権や滞在資格)があり、簡単に資産を保管することはできません。国内相続財産は、現金・有価証券・海外口座を含め、厳重に規制されており、秘匿は容易ではありません。

まとめ

・現金・金の海外持ち出しは、法定限度と申告義務がある。

 

・金融機関を通す100万円超の受領及び送金はすべて税務当局に把握される。

 

・国外転出時課税や国外財産調書制度により、海外資産も課税・報告対象となる。

 

・AEOIにより、外国口座情報も自動で国税庁に通知される。

 

 

相続財産を国外に隠すことは、法規制の強化により非常に困難です。資産移転の計画は、必ず国内外の税務・法制度を踏まえて行う必要があります。

 

 

矢内 一好

国際課税研究所首席研究員

 

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