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“プロ”との出会いが暮らしを大きく動かした
帰国後、Aさん夫婦は外車の購入を検討したり、別荘の下見に行ったりと大忙し。「こんな楽しい時間を長く続けたい」と、お金の管理方法について第三者の意見を求めるようになりました。初めは銀行の担当者だけでしたが、そのほかにも“お金に関するコミュニティ”に積極的に参加したことで、さらに複数の専門家からも提案が舞い込みます。
「普通預金のままではもったいない」
「資産家の方は、守りながら増やすのが基本ですよ」
「税務の扱いも注意が必要です」
どれも理にかなった説明に聞こえました。Aさん夫婦にとって、それは“よくわからないけれど正しそうな世界”。「専門家が味方でいてくれる」という安心感がありました。
――まさかお金の主導権が、少しずつ自分たちの手から離れていっているとは思いもしませんでした。
すべてが終わった「一本の電話」
事件は、2回目のヨーロッパ旅行中に起きました。空港ラウンジのふかふかのソファに身を沈め、「老後にこんなことがあるなんてね」と、Bさんと笑い合っていたとき、スマートフォンが鳴ります。
「Aさん、例の節税の件で、少し緊急の確認がありまして……」
親しくしていた相談相手からの電話でした。
「このままだと手続き上、“資金移動を不適切に行った”と誤解を招く可能性があるんです。いったんこちらで安全にお預かりします」
「だ、脱税って……私、犯罪者扱いになるんですか?」血の気が引いたAさんに対し、相手は「いますぐ動けば大丈夫です」と安心させます。焦りの中でAさんは、指示されるがままに複数の口座へ送金。「旅行中は安全に管理しますから」といわれ、胸をなでおろしました。
しかし、そのお金が戻ってくることはありませんでした。帰国後、待てど暮らせど相手とは一切連絡が取れなくなってしまったのです。
「理解しないまま任せる」と、後悔することも
Aさんは、専門家からの説明をほとんど理解していませんでした。「あなたのために私がやっておきます」という言葉を、鵜呑みにしてしまったのかもしれません。
しかし、お金の世界では「理解できないまま他人の指示どおりに動かす」ことは、実質的に“管理の主導権を手放す”ことと同じです。
・その資産は誰の名義にあるのか
・どの金融機関に置かれているのか
・即日引き出せるのか、どうやって引き出すのか
この3点が曖昧なまま「プロに任せて安心」と思うのは、黄色信号です。「いったん預かります」という流れで資産の管理主体は、Aさんの手から簡単に離れてしまっていました。
