(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、老後の資金計画に不安を感じる人は少なくありません。厚生労働省や金融庁などの資料では、ゆとりある老後生活には2,000万円〜3,000万円程度の貯蓄が必要とされることもあり、多くの人がこの金額を目標に資産形成を進めています。しかし、想定外の病気や介護の長期化が重なると、その“安心のはずの金額”が急速に目減りすることも。特に認知症を発症した場合、本人が判断能力を失い、資産を思うように使えなくなる現実もあります。

介護費用は毎月10万円以上に…「お金はあるのに出せない」

弘さんはその後、徐々に認知症が進行し、要介護2と認定されました。訪問介護、デイサービス、ショートステイなどを組み合わせながら在宅での介護が続きましたが、奈緒さんの仕事との両立は厳しく、最終的に介護付き有料老人ホームへの入所を決断しました。

 

施設の月額費用は約16万円(うち介護保険適用後でも自己負担は約8〜10万円)。これに医療費やおむつ代などが加わり、毎月の出費は10万円以上に。

 

「父の年金ではまかないきれず、不足分を貯金から引き出したくても、成年後見制度の関係で“施設費”と認められない項目には使えないこともありました。たとえば、本人が外出時に使う衣類や娯楽費も、後見人の許可が必要で手続きが煩雑なんです」

 

さらに、後見人への報酬(月2万〜3万円)も発生します。年間で20万〜30万円が“見守りのための費用”として貯金から出ていくことになり、思った以上に減りが早かったといいます。

 

介護開始からわずか3年、弘さんの口座残高は2,000万円を切りました。

 

「3,500万円もあったら、一生安心だと思っていました。でも現実は、認知症でお金の自由が効かず、使うにも申請が必要。父の生活の質を下げないようにするには、家族が知識を持ち、制度と向き合う必要があると痛感しました」

 

奈緒さんは今、父の資産の使い道を家族で話し合いながら、特別代理人の申立てなども視野に入れているといいます。

 

成年後見制度では、被後見人の財産はあくまで本人のために使われるべきものとされており、介護や医療などの支出は認められやすい一方、趣味や交際費などには制限があります。特に、家族への贈与は原則として認められず、行う場合は家庭裁判所の許可が必要です。

 

また、介護付き有料老人ホームの平均的な費用は月15万円前後(厚労省「介護事業経営実態調査」等)とされており、年金だけでは不足しがちです。高齢者の貯蓄は「あるだけでは不十分」であり、「どう使えるか」「どう守るか」が問われる時代に入っているのかもしれません。

 

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