「父は貯金があるから大丈夫」娘が見落としていた盲点
「父は自分で老後資金をしっかり準備していて、私たち子どもに迷惑をかけることはないと思っていました」
そう語るのは、東京都内で暮らす会社員の松永奈緒さん(仮名・45歳)。父・弘さん(仮名・78歳)は、大手企業を定年まで勤め上げ、退職金と貯蓄で約3,500万円を確保していました。
退職後は年金月額16万円ほどに加え、持ち家で固定支出も少なく、悠々自適な生活を送っていたといいます。しかし、そんな穏やかな生活に異変が生じたのは、奈緒さんの母が他界した2年後のことでした。
「父の様子が少しずつ変わってきたんです。通帳を無くしたり、同じ話を何度も繰り返したり。最初は年相応の物忘れかと思いましたが、ある日、駅のトイレで財布をなくし、帰宅できずに交番に保護されたことで、これはおかしいと思いました」
医師の診断結果は「軽度の認知症」。本人はまだ日常生活が可能でしたが、以後は見守りや定期的な通院が必要になりました。
診断を受けてから、奈緒さんは父の金銭管理や生活のサポートを始めましたが、間もなく限界が来ます。
「父が必要ない通販商品を次々に買っていたり、訪問販売で高額の布団を契約していたり…明らかに判断力が落ちているのに、口出しすると怒るんです。正直、怖かった」
やむなく、奈緒さんは「成年後見制度」の利用を検討しました。これは認知症などで判断能力が衰えた人に代わって、財産管理や契約手続きを行う制度です。家庭裁判所を通して後見人が選任される仕組みで、家族が後見人になる場合もあれば、弁護士や司法書士など第三者が選ばれることもあります。
「でも、父の資産が大きかったためか、裁判所から選ばれたのは専門職の後見人でした。これがのちに“使いたくても使えないお金”になるとは思ってもいませんでした」
