破格の年俸3200万円の「天才少年」がわずか15カ月で開発…中国IT大手が“リスク覚悟”で市場に投入する「永遠の未完成車」の正体

破格の年俸3200万円の「天才少年」がわずか15カ月で開発…中国IT大手が“リスク覚悟”で市場に投入する「永遠の未完成車」の正体
(※写真はイメージです/PIXTA)

中国では、かつてのハードウェア中心の車とは異なり、ソフトウェアで車の機能や性能をアップデートできる「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型自動車)」の開発競争が激化している。開発期間も平均15~20カ月と、日本企業の半分以下。これほどのスピード感で開発を進められる背景には、IT大手による若手エリートの囲い込みと、リスクを恐れず市場投入する中国ならではの「開発手法」があった――。湯進氏の著書『2040中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より、中国SDV開発の最前線を追う。

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開発期間2分の1…リスク覚悟の市場投入で“走りながら進化”

過酷な開発競争が、猛烈な働き方につながる一方、革新を起こしやすい環境も形成されており、SDV化が電動化とあいまって、中国NEVの知能化が加速している。

 

これまでのガソリン車では、開発期間「3年以上」というのが一般的であった。しかし、中国勢のSDVは、ソフトウエアや制御ユニットのアジャイル開発を行い、業界の常識を一変させている。アイデアをソフトウエアにした後、ハードウエアの仕様を決めていく。そして、発売後も車両をアップデートし、機能の調整や方向転換も実施する。

 

例えば、EV開発から工場での生産工程がすべて終了する「ラインオフ」までの期間を調べてみると、中国でホンダのEV新ブランド「燁(イエ)」は開発に約40カ月かかったのに対し、中国新興勢のEV開発の平均は15~20カ月、BYDも同16~22カ月と半分程度だ【図表】。

 

注:筆者概算 出所:現地企業へのヒアリングより筆者作成
[図表]新車開発からラインオフまでのリードタイム 注:筆者概算
出所:現地企業へのヒアリングより筆者作成

 

実際、シャオミのEV「SU7」に試乗してみたが、スマホと統合されたシステムの完成度は高く、車両機能の設定・管理・操作など消費者の心をつかむ体験も多く、走るスマホといっても過言ではない【写真】。

 

出所:いずれも筆者撮影
[写真]シャオミ工場周辺でEVに試乗/EVSU7のテスト 出所:いずれも筆者撮影

 

シャオミは「人・車・家」のエコシステムの構築を目指し、独自のOS「澎湃」で家電とEVの連携を広げ、ライフスタイルの差別化でユーザーの確保を狙う。一方、消費者の世代交代が進むとSDVが受け入れやすくなり、スマホメーカーからEVへの参入は消費者に合ったトレンドであろう。

 

確かに、開発期間の短縮によって品質を落としたメーカーもなくはない。内装や装備は豪華に見えても、見えない部分の部材を安価なものにすり替えたり、開発・製造のプロセスの手を抜いたりする例もある。

 

こうしたなか、中国企業はリスクをとりながら素早く製品を市場に投入し、フィードバックと改善を繰り返しながら、技術や製品の進化を進めている。

 

 

湯 進

みずほ銀行

ビジネスソリューション部上席主任研究員

 

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※本連載は、湯 進氏による著書『2040 中国自動車が世界を席巻する日』(日本経済新聞出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

2040 中国自動車が世界を席巻する日

2040 中国自動車が世界を席巻する日

湯 進

日本経済新聞出版

BYDの実力、群雄割拠の各社の戦略、CATLが見ている未来……。 知能化でどう変わるのか、産業政策の実態は、日本企業は2040年の市場で勝てるのか――。電動化を追い風に爆発的に成長した中国自動車産業。本書は、成長を生み…

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