親族が継がない企業では、従業員への承継が現実的な選択肢となります。しかしその裏には、株式評価額の高さや経営者保証の問題など、複雑な課題が潜んでいます。承継を成功させるために、今すぐ準備しておきたい3つの実務対応を公認会計士の岸田康雄氏が解説します。
優秀な従業員=良い経営者とは限らない
中小企業の経営者にとって、後継者問題は避けて通れない課題です。「子どもが継がない」「親族に適任者がいない」という場合、選択肢として浮上するのが「従業員への事業承継」です。
しかし、この方法も親族内承継と同様に、いくつものハードルを越えなければなりません。
会社を任せられる人材として真っ先に名前が挙がるのは、営業成績トップの社員や長年勤務してきた幹部社員でしょう。
しかし、「優秀な営業マン」と「経営者に向いている人」は別です。営業や現場のスキルが高くても、経営戦略の立案や資金繰り、組織運営といった経営管理に適性があるとは限りません。
実際、「数字を追うのは得意でも、経営管理の仕事は苦手」という従業員は少なくありません。
株式と経営者保証の引継ぎが最大の壁
従業員承継を進める際に最も問題となるのが、株式と経営者保証です。
非上場企業では、会社の所有権を示す株式を後継者に譲渡する必要がありますが、無償で渡すことはできません。原則として有償譲渡となるため、後継者は自ら資金を用意しなければならないのです。
さらに、金融機関からの借入金がある場合は、経営者保証の引継ぎも必要になります。
借入金の額を初めて知った従業員が、承継をためらうケースも少なくありません。そのため、現経営者は早い段階から借入金や財務状況をオープンにし、信頼関係を築いておくことが欠かせません。
公認会計士/税理士/行政書士/宅地建物取引士/中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)
平成28年度経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン委員会」委員、令和2年度日本公認会計士協会中小企業施策研究調査会「事業承継支援専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。
一橋大学大学院修了。中央青山監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、三菱UFJ銀行ウェルスマネジメント営業部、みずほ証券投資銀行部M&Aアドバイザリーグループ、メリルリンチ日本証券プリンシパル・インベストメント部不動産投資グループなどに在籍し、中小企業の事業承継から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継とM&A実務を遂行した。現在は、相続税申告と相続・事業承継コンサルティング業務を提供している。
WEBサイト https://kinyu-chukai.com/
著者登壇セミナー:https://kamehameha.jp/speakerslist?speakersid=142
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