「実質的な自己負担は減らない」介護給付の“構造的限界”
介護保険制度では、要介護度や所得に応じて利用できるサービスや自己負担割合が決まっています。原則1割負担(一定以上所得者は2〜3割)ですが、それ以外の費用――たとえば食費・居住費・通院交通費・おむつ代・日用品――などは全額自己負担です。
また、特定入所施設(特養など)では「補足給付」が出ることがありますが、条件が細かく、
●本人の預貯金が一定額以下(2024年時点で単身者:1,000万円以下など)
●扶養義務者の収入が一定以下
●世帯分離していても実質的な援助があるとみなされると減額
といった“見えにくい線引き”が数多く存在します。
明美さんは言います。
「母の通帳に10万円入ったからといって、母の趣味や衣類に使えるかといえばそうではなく、あくまで“介護費に回るお金”だった。逆に言えば、それがなかったら今後の自己負担がもっと重くなっていたわけで、ありがたい制度なんですけどね」
ただ、「通帳に“見える”ことで安心してしまい、誤って他の出費に使ってしまいそうになる」という声も。自治体からの入金でも、“用途が限定される補助”かどうかは個別に確認しなければなりません。
介護保険制度には、国の枠組みに加え、市区町村が独自に行う「地域支援事業」や「介護給付の補完制度」があります。たとえば
●補足給付(食費・居住費軽減)
●高額介護サービス費の還付(一定額を超えた自己負担の払い戻し)
●生活援助・緊急支援としての一時給付金
などがありますが、いずれも
●対象者は要件を満たした人のみ
●用途は“原則的に介護関連費用”
●通帳に入っていても、実質的には使途制限あり
というケースが少なくありません。
高橋さんは今、母のケアマネジャーと連携して、今後の費用の見通しと「補助がどこまで適用されるか」を一覧にまとめています。
「福祉課に電話すると“これは生活保護の代替ではありません”とか“原則は代理受領です”といった説明をされることもあります。制度はありがたい。でも、もっとわかりやすくなってくれたらより嬉しいですね」
高齢者の通帳に入金があると、一見「支給」「収入」に見えてしまいます。しかし、介護制度においては“用途が限られた補助金”であることが多く、自由に使えるお金ではない”ケースも少なくありません。
介護サービスと費用のバランスは、生活設計に直結します。「見覚えのない入金」があったときこそ、一度立ち止まり、“そのお金は何のための支援なのか”を確認することが、思わぬトラブルを避ける第一歩かもしれません。
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