「売るしかないよな」実家に残された父の遺影
「母が亡くなったとき、なんとなく“父がいる限り大丈夫”と思っていたんです」
そう語るのは、都内で事務職として働く60代後半の男性・一樹さん(仮名)。父親が亡くなったのは昨年の秋。地方にある実家は、兄妹2人の共有名義となりました。
妹の美智子さん(58歳・仮名)は独身で、首都圏のワンルームに一人暮らし。
「じゃあ誰が実家を管理する?って話になると、正直どちらも難しい。結局、売却が現実的でした」
空き家となった実家は、築50年超の木造住宅。庭の草木は伸び、老朽化も進んでいました。
「固定資産税に、火災保険、庭木の手入れ……住まなくても、維持費は年間10万円単位でかかる。それでも誰かが掃除に通わなきゃならない」
二人は話し合いの末、地元の不動産業者に相談。売却前提での査定を依頼することになりました。
「感情的には残したい。でも、現実的には“持っているだけで赤字”でした」
売却にあたり必要だったのが、相続登記です。
「父の死後、早めに登記を済ませていたので、スムーズでした。でも、これ放っておいたらトラブルになるところでしたね」
2024年4月以降、相続による不動産取得は3年以内の登記申請が義務となり、怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性もあります。特に兄妹の共有名義になるケースでは、登記手続きの遅れが将来の売却や解体に大きく影響します。
無事に実家は売却できたものの、次の課題が浮上します。
「妹の賃貸契約が更新を迎えていたんです。家賃も上がるし、職場が遠くなったとぼやいていて」
一方の一樹さんも、定年退職後は年金生活で、郊外の古い団地に住んでいました。
「段差が多くて膝が痛むし、駅から遠い。妹と“お互いひとりで不便な暮らしをしているなら、いっそ一緒に住んだらどうか”という話になったんです」
