「父の生活は、ギリギリだと思っていた」
「月2万円でも、助かるみたいだったんです」
そう語るのは都内在住の会社員・麻衣さん(52歳・仮名)。10年前、父・昭一さん(当時70歳)が脳梗塞で入院したのをきっかけに、生活費の援助を始めました。
「退院後は後遺症も軽く、ひとりで生活できていたのですが、年金だけでは不安だと口にしていたので……」
父の収入は、月額12万円ほどの厚生年金。貯蓄も「ほとんどない」と聞かされていた麻衣さんは、毎月2万円の仕送りを“親孝行のつもり”で送り続けていました。
「届いたよ」とLINEが来るだけの月もありました。ときには通帳の残高をスマホで撮った画像が届いたこともあり、「ほらね、ギリギリでしょ」と言われたことも。
「正直、感謝されているというより“当然”と思われているような雰囲気もあって、もやもやした時期もありました」
それでも麻衣さんは仕送りを続けました。独身で子どももいない自分だからこそできること、という思いもあったといいます。
父が倒れたのは、昨年の夏。心筋梗塞で、発見されたときにはすでに手遅れでした。葬儀を終え、賃貸アパートの整理に訪れた麻衣さんは、古びたノートや通帳の束とともに、1枚の厚紙に包まれた封筒を見つけます。
「手紙かな、と思って開いたら、中にびっしりと書かれた“記録”があったんです」
そこには、日付とともに「〇月〇日 仕送り2万円入金、うれしい。安心した」「冷蔵庫が壊れて困っていたから、助かった」「今月は余裕があるから5000円貯金に回した」などのメモが、10年分、丁寧な筆跡で綴られていました。
涙が止まらなかったといいます。
「言葉にするのが苦手な父だったけど、毎月ちゃんと記録していたんだと思ったら……嬉しくて、悲しくて、複雑で。たった2万円でも、父にとっては“支え”だったと知りました」
