通帳を見た瞬間、言葉が出なかった
「通帳を開いた瞬間、固まりました。金額が…桁違いだったんです」
そう話すのは、会社員の斎藤亮介さん(仮名・47歳)。92歳で亡くなった祖母・澄江さん(仮名)の葬儀を終えた数日後、親族とともに遺品整理をしていたときのことです。
「祖母は年金暮らしで、質素な生活を送っていた。よくスーパーの特売をチェックしていたし、光熱費の節約にもうるさかった。それなのに、タンスの奥から出てきた封筒の中に、見慣れない通帳が入っていて…残高は7,000万円超。本当に驚きました」
通帳の名義は澄江さん本人。しかも、過去10年以上にわたってほとんど動きのない定期預金口座でした。
亮介さんの祖父は、澄江さんの夫で10年前に他界。当時の遺産総額は約3億円。祖父は不動産業を営み、複数の賃貸物件と株式を保有していました。
「父や叔母は、相続のときに一応“遺産分割協議”をしたとは言っていましたが、詳細は祖母に任せていたらしいんです。結果的に、資産の多くがそのまま祖母の名義になっていたようです」
家族も資産の存在を完全に把握していなかったため、「そのまま塩漬け状態になっていた通帳」が、今回の発見につながったのです。
高齢の方が長く生きるほど、かつての遺産をそのまま保持している可能性が高まります。特に、法定相続人が『おばあちゃんが使う分だから』とあえて触れずにいた財産が、のちに再度“相続対象”になることはあります。
また、今回のように資産が高額である場合、相続税の申告義務も発生する可能性があります。2025年10月時点で、基礎控除額は「3,000万円+(法定相続人の人数×600万円)」であり、それを超える場合は申告・納税が必要です。
「祖母は遺言書を残していませんでした。でも、通帳と一緒に入っていた手紙には、『このお金はみんなで仲良く使ってね』って一言が添えられていたんです。涙が出ました」
とはいえ、現実問題として、遺産の分配をめぐる話し合いは避けられません。亮介さんの父と叔母、さらに孫世代である亮介さんたち兄妹にも、法定相続分が発生するためです。
「正直、気まずくならないように進めたいと思っています。でも、これまで“何もない”と思っていた分、対応に戸惑いもあります」
