ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
同僚は“静かな退職者”
最近、国内外のニュースで見かけることが多い「静かな退職(Quiet Quitting)」。仕事に必要な最低限のことだけを行い、それ以上は行わないという状態を指します。能動的に辞職するわけではないため周囲には分かりづらい現象ですが、職場で共に働く人にとってはさまざまな影響を及ぼします。
人材サービスなどの事業を展開する企業で課長職を務める武井璃子さん(仮名・44歳)は、まさにそのような同僚と数年間同じ部署で働いてきました。
5年前、武井さんが配属された部署は2人きり。もう1人は3歳年下の平井さんで、当時39歳と36歳という年齢差でした。立場やキャリアは明らかに武井さんの方が上でしたが、ほぼ同時期に入社したことから、先輩と後輩というよりは同僚のような関係性でした。平井さんは、これまで正社員経験がなかったといい、「武井さんみたいに有名大学を出ていない私は、ずっと苦労のしっぱなし。辛酸を舐めてきたんです」と、ことあるごとに自分の境遇をアピールしてきました。
「仕事はお願いした分だけやってくれるんですが、それ以上は一切やらない。ミーティングでも自分から発言することはなく、部署の雰囲気を盛り上げることもない。正直、関わるのが面倒でしたので、私も極力頼まないようにしていました」
上から武井さんの部署に仕事が降ってきても、平井さんは巧みに自分の存在感を消すので、上への報告やプレゼンはすべて武井さんが担当することになり、必然的に武井さんの存在感は増し、上司からの信頼も厚くなっていきました。いつの間にか武井さんと平井さんの関係は同僚ではなく上司と部下という関係になっていきました。
武井さんが振り返る「静かな退職」
当時を振り返り、武井さんはこう語ります。
「当時は“静かな退職”なんて言葉は聞いたことがなかったのですが、彼女のことを思い出すと、あの働き方は“静かな退職”だったんだなと思うんです。積極的な姿勢は見せないけれど、かといって転職するとか他の部署への異動を申し出るとかもない。彼女にしてみたら、やっとつかんだ正社員で、お給料もそこそこ貰えているので、絶対にこの会社にしがみついてやるという意思を感じました」
このセリフは、静かな退職者が職場に存在する現実と、それにどう向き合うかを象徴しています。
平井さんとの印象的なやりとり
武井さんの出世ぶりに対し、平井さんからこんな言葉を投げかけられたこともあります。
「おじさんたちから可愛がられて、ズルいですね」
武井さんはあえて同情する目線で返しました。
「あなたからはそう見えるんだね」
その一言以降、平井さんはそれ以上何も言わなくなったといいます。
また別の場面では、全社員が見られるチャットで、平井さんから「武井さんの資料、ここが間違っていますよ」と指摘を受けました。武井さんは平井さんからの指摘がもっともだったので普通に「言ってくれてありがとう! 助かった!」と返したのですが、後日、別部署の後輩からこう言われたそうです。
「武井さん、本当に素敵です。正直、あの場面では『平井さん、みんなが見ているチャットであんなことを指摘するなんてちょっと性格悪いんじゃない?』って思ったんです。でも、武井さんが全然気にしていないどころか、感謝していて、私も見習いたいと思いました」
