武井さんの成長と年収推移
こうして周囲からの評価を積み重ねた武井さんは、この5年間で年収も500万円から650万円へと着実に上がっていきました。平井さんとの距離感を保ちながらも、自分の仕事に責任を持ち、周囲の信頼を得ることができたのです。
「最低限の仕事をしてくれればそれでいい」と割り切る武井さんの姿勢は、静かな退職者との共存においても大きな助けになりました。
武井さんは「確かに仕事が増えて大変ではあったのですが、平井さんは最低限の仕事はしてくれるし、逆に言えば余計なことはしない。なので、ストレスはそれほどありませんでした」と話します。
調査が示す「静かな退職者」と幸福感の関係
リクルートマネジメントソリューションズが全国の正社員7,105名を対象に実施した「働く人の本音調査2025」によると、職場に「静かな退職者」がいると回答した人は全体の 約4人に1人(27.7%) にのぼります。つまり、自分が静かな退職をしていなくても、そうした状態にある人と関わる可能性は十分にあることが分かります。
「同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいる」と回答した人を対象に、その影響について尋ね た結果、「不利益を被ったことがある」と回答した人は半数を超えて 55.1%に上った一方で、 「恩恵を受けたことがある」と回答した人も 15.1%存在。恩恵を受けたと感じたことがある 人も一定数いることが明らかになりました。
静かな退職者が周囲にいる場合でも、次の条件が満たされていれば主観的幸福感が高くなることが示されています。
1.成長支援感
「会社は従業員の成長を支援してくれている」と感じる人は、静かな退職者が周囲にいても幸福感が高く、さらに「静かな退職者がいるが成長支援を感じている」人は、静かな退職者がいない環境で働く人よりも幸福感が高い結果が出ています。
2.正当評価感
「会社は従業員を正当に評価している」と感じる人は、感じていない人よりも幸福感が高いという統計的な差が確認されました。特に、静かな退職者がいる場合でも正当に評価されていると感じる人は、周囲に静かな退職者がいない場合よりも幸福感が高くなることが示されています。
武井さん自身も「周りが正当に評価してくれたからラッキーだった」と語っており、正当な評価が幸福感を支える要因であることを裏付けています。
静かな退職とどう向き合うか
調査はまた、静かな退職者そのものを排除すべき対象と考える必要はないことも示しています。集団には必ず「よく働く人」「普通に働く人」「あまり働かない人」が一定割合で存在する――いわゆる「働きアリの法則」です。静かな退職も自然な状態の一つと考えられます。
重要なのは、周囲の人が「成長支援」と「正当評価」を実感できる環境を整えること。そうすれば、静かな退職者がいても職場全体の幸福感は保たれ、時には高まることさえあるのです。
武井さんの経験に見る幸福感の条件
武井さんは静かな退職者・平井さんと同じ部署で働きながらも、自分の評価を高める機会を得ました。周囲の信頼と上司の評価、そして自身の冷静な対応があったからこそ、年収も着実に上がり、職場での存在感も増していったのです。
最後に、武井さんはこう語ります。
「そもそも平井さんとは人間的に合わないなと早々で感じたので、最低限のやり取りに済ませました。彼女も最低限の仕事はやってくれるので、そこだけでもいいやって最初から割り切ったんです。ある意味、彼女のおかげで私は出世できたのかもしれないです」
静かな退職者がいても、周囲の努力が見過ごされず、公正に評価される職場であれば、人は健やかに働き続けられる――武井さんの経験と調査結果は、それを雄弁に物語っています。
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