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我が国の林業の実情
一方、我が国の林道とは山の尾根を縫った杣道であり、自動車の入れるような林道整備には多大な予算を必要とし、山林の管理の前に林道工事そのものが至難となってしまう。
かつて、人の手で道作りをし、山と山をケーブルカーやトロッコで繋ぎ、奥深い山の中で切り倒した丸太を、人力で運搬機械のある場所まで運び、そこから途中の危険な崖地や谷間を越えて、やっとの思いで製材所に運び込む。製材所は谷間の限られた平地に設置されたものの、電気や燃料などの引きこみや運搬にも苦労するような場所である。
そうした小規模な製材所で加工された材木は、またも人の手やロバや馬で細い林道を伝い引き下ろす。広い国道に繋がればいいが、そうでない場合は川に流すこともあり、丸太を無事に川下りで河口まで運ぶことも危険を伴う大仕事であった。
このような苦労をともなう材木流通には当然ながら各種の費用も人件費もかかることになり、北米やロシアのように樹林産地からコンテナで積み出し港まで直送できる環境とは大いに異なり、販売単価も割高となってしまうのである。
そのような事業環境の中でも、戦前は材木および木加工品は日本の主な輸出品目のひとつでもあった。同時に原木の丸太や木加工品には30%以上の関税がかけられており、海外から木材を輸入するといったこともなかった。戦時中の需要だけでなく、戦後の復興期にはまちづくりや家造りに大量の木材を必要としており、木材価格の急騰や敗戦後のGHQの占領政策の中で、国産材だけでは木材需要がこなせないということで、木材の関税は撤廃の方向となり、1961年より木材の段階的な輸入自由化が始まったのである。
我が国は国土の70%近くが森林であり、戦前から続く植林計画もあり木材の自給率は90%近いものであったのだが、案の定、このときの関税30%からゼロという、急激な輸入自由化により一気に木材自給率は40%台にまで下落した。以降は木材価格も下がり続け、国内林業は原価率が高いにもかかわらず、木材価格は低迷を続けているため、利益が取れず国内の林業従事者は減少する一方なのである。
このことは、森林のもつ環境維持能力、治水能力等にも影響を与え始めており、山が荒れることで、水害が引き起こされる頻度が上昇しているのも、異常気象や気候変動だけでなく、この林業衰退が影響を与えている可能性もあるのだ。
この木材輸入自由化の流れは米軍による占領下で始められたものだったとしても、それまで数百年以上も続いてきた国内自給の木材供給力や、そこに関わる多くの就労者や林業を維持する文化や人材、木材木工製品を生み出す地域や文化といった多くの人材を十数年の間に一挙に失っていったという意味では、政策の失敗であり、建設産業の人材ファスト化の中でも、壊滅的なものであったと言わざるを得ないであろう。
