マンション低層階のファスト化
バブル期の土地価格の上昇による経済的過熱と、その後のバブル崩壊による急激な土地価格の下落による停滞は、余裕のある開発よりも、拙速な開発資金の回収のほうが優先し、建設費用の中に商品的価値や販売不能な床面積の排除の傾向を呼ぶことになる。
駐車場の不足したマンションや管理人不在のマンションが増え、一階の入り口ホールも小さくし、エレベーターも必要最小限の台数に減らし、とにかく販売可能な分譲戸建てを一階の端まで増やしていくようなプランニングが推奨された。
そこでは当然のことながら、管理の必要な植栽はなくなり、かつての高級マンションを真似たロビーにおける坪庭などもない。同時に敷地周辺の道路に面したテナント誘致といった配慮もなくなるため、すべてが裏側のようなデザインされない設計となっていく。
敷地周囲に通行人からの目線をさえぎる植栽も塀もないため、一階の道路に面した住戸では、プライバシー確保のために、バルコニー前に檻のような金属の縦格子や目隠しパネルなどで隠さなければならない始末である。
こうした集合住宅はバブル後の経済停滞状況下での住宅取得者に向けて、販売価格を下げるための努力ともいえなくもないが、同じ高層マンションの中で高層階と低層階で販売時の時点で購入価格が如実にさらされてしまい、コミュニティ形成上にも心理的な階層差があらかじめ埋め込まれるという弊害が生じることになる。
賃貸住宅のファスト化
さらに酷いのが投資用、事業用マンション設計やデザインのファスト化である。長い不況下で金融資産への金利は0.01パーセントを切るようなところまで下落し、大金を銀行に預けていても振り込みや利用手数料でマイナスになってしまうという実情の中で、投資利回りが5%、10%を謳い、多くの人々に訴求してきたのが、賃貸マンション投資である。
若いうちなら自分や家族が居住するための住宅ではなく、まだ多くの金融資産をもつ資産家ではなくとも、賃貸で家賃収入を得ることができるという、不動産事業に幅広く投資を呼びかけることがブームとなった。また、そのような賃貸アパートやマンション投資により、生活費を稼ぐ専業大家さん、会社に知られることなく本業以上の収入を副業で得るサラリーマン大家さんなどを、ことさら持ち上げ、そこに集うサロンビジネスなどに注目が集まった。
そうした不動産投資は、個人で可能な借り入れ限度もあって、大型の集合住宅案件とは異なり、6部屋、8部屋といった戸建て住宅敷地を対象にした小規模なアパートをも対象としている。
