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厳格化する移民政策と市民権審査
アメリカでは、不法移民の取締りや市民権の審査がかつてないほど厳格化しています。その背景には、大統領支持率を左右する雇用と景気、そして移民政策を巡る国民の関心があります。特に近年注目されているのが、市民権や永住権を放棄・剥奪された際に課される「Exit Tax(出国税)」です。
アメリカ大統領の支持率は、失業率や株価(ニューヨークダウ)といった景気動向に大きく影響します。そのため、米国人の雇用を守る目的で、不法移民への取締りはますます厳しくなっています。最近も韓国人による不法就労が摘発されましたが、観光ビザやESTAで入国して働いていたことから、韓国では常套手段となっていた可能性があります。この影響により、学生ビザや就労ビザの審査も年々厳格化しています。
市民権剥奪とExit Taxの仕組み
司法省は市民権の剥奪にも力を入れており、特に犯罪歴の隠匿や虚偽申告による市民権取得に厳しく対応しています。
2023年8月には、国土安全保障省の移民局(USCIS)が「市民権申請者が“Good Moral Character(徳と品性)”を備えているか包括的に判断する」とのメモを発表しました。これは法的遵守に加え、社会的信頼性や税務状況も評価対象となることを意味します。
大きな関心事は、市民権を失った場合の税務上の扱いです。アメリカでは、市民権や永住権を放棄する際に「Exit Tax(出国税)」が課されます。これは全世界資産を時価で評価し、含み益に課税する仕組みで、日本の出国税よりもはるかに重い負担となります。
課税対象となる条件は以下となります。
純資産が200万ドル(約3億円)以上
過去5年間の所得税負担が20万6千ドル以上
税務コンプライアンス違反がある場合
特に注意が必要なのは、グリーンカード保持者も対象になる点です。カードが失効しても、正式にIRS(内国歳入庁)へ永住権放棄の申請とExit Taxの申告を行わなければ、米国の税務義務から解放されることはありません。市民権保持者も同様で、裁判所から市民権失効の証明を得るまでは税務責任を負い続けます。
財産を受け取る側にも課税
Exit Taxは本人だけでなく、財産を受け取る側にも影響します。元市民や元永住権者から財産を受け取った場合、受贈者には金額に関わらず40%の贈与税が課されます。安易に「出国するから譲る」といった対応は、高額な税負担を招きかねません。
トランプ政権以降、市民権取得において税務遵守が「Good Moral Character」の重要な評価基準となっています。これまでは犯罪歴や偽証、扶養義務違反などが主な阻害要因でしたが、今後は安定した就業や社会貢献に加え、税務の誠実さが不可欠な条件となります。
アメリカでは移民法と税法が複雑に絡み合い、市民権や永住権を巡る手続きには細心の注意が必要です。市民権取得を目指す人にとって、税務上の誠実さは「社会的評価」の一部であり、その重要性は今後さらに高まっていくと考えられます。
税理士法人奥村会計事務所 代表
奥村眞吾
