50代の義弥さんは、母親の相続を見据えて相談に訪れました。父はすでに20年前に他界し、88歳の母は自宅での生活が難しくなり、現在は老人ホームに入所中です。義弥さん夫婦には子どもがおらず、きょうだいもいないため、もし義弥さんが母親より先に亡くなった場合、母親の財産が妻ではなく叔母2人に渡ってしまうことを強く不安視していました。妻に安心して財産を残すためにはどうすればよいのでしょうか? 相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。
母親の遺言書で妻に遺贈
義弥さんの不安を解消する最も確実な方法は、母親が公正証書遺言を作成し、「母親より先に義弥さんが亡くなった場合は、義弥の配偶者に全財産を遺贈する」と明記することでした。こうすれば、母親の妹2人が相続人になることはありません。遺留分の請求もなく、手続きはスムーズです。
義弥さんは母親の了解を得て、すぐに遺言書作成の準備に入りました。母親の印鑑証明書や戸籍謄本、義弥さんと妻の戸籍謄本をそろえ、私が公正証書遺言の証人として作成をサポートしました。
義弥さん自身の遺言書作成
さらに、義弥さんは自身の財産についても遺言書を作成しました。もし母親より先に亡くなった場合、相続人は妻と母親で、法定相続分は配偶者3分の2、母親3分の1です。しかし、義弥さんは妻に全財産を渡したいと考えていました。
母親が認知症になっている場合でも遺産分割協議が円滑に進まないことが想定されるため、「自分の財産はすべて配偶者に相続させる」とする公正証書遺言を作成しました。これにより、成年後見人の介入や遺留分請求の心配もなくなります。
寄付や予備的遺言の検討
義弥さんはさらに、万一のために寄付や親族への遺贈についても相談されました。公正証書遺言では、最初の内容が実現できない場合の「予備的遺言」を指定することが可能です。
例えば母親や妻が先に亡くなった場合、次に誰に相続させるかを決めておくことができます。寄付先や遺贈先を明確にする必要はありますが、義弥さんはまだ具体的に決められていないため、必要に応じて追加で公正証書を作成する形を勧めました。
母親の妹たちへの配慮
義弥さんは「母親の妹2人はよく面倒を見てくれるが、遺言や相続について伝えておくべきか」とも悩まれていました。一般的に、子どもがいればきょうだいに相続権はありません。介護や協力に対して感謝を示す場合、生前贈与の範囲でお礼をする方法が適切です。相続後に義弥さんが妻の判断でお礼をすることも可能です。
公正証書遺言の作成サポート
こうして母親と義弥さんは、同じタイミングで公証役場に出向いてもらい、別々に個々の公正証書遺言を作成しました。母親は高齢ながら、元気で、意思確認も問題なくできました。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®
株式会社夢相続 代表取締役
一般社団法人相続実務協会 代表理事
一般社団法人首都圏不動産共創協会 理事
一般社団法人不動産女性塾 理事
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書86冊累計81万部、TV・ラジオ出演358回、新聞・雑誌掲載1092回、セミナー登壇677回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2025年版 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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