もう我慢できません…父の遺産9割超を相続した〈声のでかい兄〉に怒り心頭。辛酸を舐め続けてきた〈60代女性〉が反撃を決意したワケ【相続の専門家が解説】

もう我慢できません…父の遺産9割超を相続した〈声のでかい兄〉に怒り心頭。辛酸を舐め続けてきた〈60代女性〉が反撃を決意したワケ【相続の専門家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

「相続は平等に行われるもの」と思っていても、現実の相続現場では、声の大きい人、情報を握っている人に押し切られてしまうケースが少なくありません。今回ご紹介するのは、父の相続で内容もわからないまま押印させられ、結果的にほとんど財産を受け取れなかった60代女性の事例。相続の現場で実際に起きている“押し切られる相続”の実態と、そこから立て直すために必要な具体策を、相続実務士・曽根惠子氏(株式会社夢相続 代表取締役)が解説します。

相続で押し切られる現実

先日の面談で涙ながらに相談に来られた長浜順子さん(60代・長女・仮名)の事例をご紹介します。

 

「父の相続のとき、私はほとんど何ももらえませんでした……」

 

面談室の椅子に腰かけるなり、順子さんは小さくつぶやきました。

 

「父の相続のとき、私は本当になにも知りませんでした……気づいたら全部終わっていて、印鑑を押させられて……」

 

声は震え、10年経った今でも深い後悔を抱えていることが伝わってきました。

 

父の四十九日法要直後にかかってきた電話

その日は、四十九日法要を終えて心が落ち着くはずの時期でした。しかし、次男夫婦は順子さんに突然電話をかけてきました。

 

「実印持ってこい」
「印鑑証明書も必要だ」

 

順子さんは内容もわからないまま急かされ、反論する間もなく遺産分割協議書に押印させられてしまいました。

 

さらに追い打ちをかけるように、次男は順子さんにこう言い放ちました。

 

「親のお金を当てにするなんて、情けない!」

 

母親はその場で涙を流し、順子さんを責めるような雰囲気になり。精神的に追い詰められた順子さんは、押印するしかありませんでした。

 

相続財産の9割超を取得した次男

相続財産の9割以上は次男が取得。順子さんに残ったのは「雀の涙ほどの現金」でした。法律的には、一度押印してしまうと覆すことはできません。これが現実です。順子さんは、その後悔を10年間抱え続けていました。

 

しかし、ここで話は終わりません。

 

順子さんにはまだ「二次相続(母の相続)」が残されていました。


そして今回の相談をきっかけに、順子さんはようやく“前に進む覚悟”を決めたのです。

まずは自分が置かれている現実整理から

順子さんの状況は、相続の現場では決して珍しいことではありません。当方には毎日のように同じ悩みが寄せられています。

 

・同居家族が全てを握り込む
・強い口調の家族に押し切られる
・書類を見ないまま判を押してしまう

 

では、順子さんの現状を具体的に整理してみましょう。

 

① 父の相続資料を一切見ていない

・遺産分割協議書
・相続税申告書
・財産目録

 

これらは本来「相続人全員」が共有すべきものですが、順子さんは1枚も持っていません。

 

② 次男夫婦が財産・情報のすべてを握っている

次男夫婦は相続にも強く、法律にも明るいタイプ。話し合いで勝つのは困難です。

 

③ 母の財産は少なく「最後の取り戻しポイント」

母名義の財産は


・隣の平屋(貸家)
・わずかな預金
・年金収入


のみ。

 

実家もマンションも会社名義で、実質的に次男が支配しています。

④ 順子さん自身が“住まいも収入も不安定”

順子さん:独身・賃貸暮らし
長男:障害福祉サービス利用
次男家族:家も収入も安定

 

最も危ういのは順子さんでした。

⑤ 母親が「古い価値観」を持っている

「家を継ぐのは男」という考え方が根強く、順子さんは不利な立場。ここから巻き返すためには、専門的で戦略的なアプローチが必要です。

二次相続に向けて、順子さんが“最優先でやるべき3つのこと”

面談で、私は順子さんに次の3つを必ず実行するように伝えました。

① 父の相続資料を入手する(最重要)

これがすべてのスタートです。

 

相続税申告書を見ると
・誰が何をどれだけ取得したか
・父の全財産はいくらだったか
・税金を誰がいくら払ったか
すべてが分かります。

 

次男の
「父の財産なんてたいしたことなかった」
という発言が本当かどうかも、一目で明らかになります。

 

資料は
・母
・次男
・当時の会計事務所
から入手可能。


相続人の順子さんには法律上の取得権利があります。これは順子さんの「交渉の武器」になります。

② 母の財産を正確に特定する

財産が曖昧なままでは、遺言も話し合いもできません。最低限、以下の三点が必要です。
 

  1. 平屋の固定資産税評価証明書
  2. 賃貸契約書のコピー
  3. 預金の残高証明
     

これは、後でもめないための「絶対条件」です。

 

③順子さんの“住まい”と“収入源”を公正証書で確保する

最も大切なのはここです。母の口約束や、次男の「いいよ」という言葉にはまったく効力がありません。


必要なのは 公正証書レベルの文書化。

 

・母の死後、順子さんが住める住まい
・平屋の家賃収入を順子さんに
・母の遺言は順子さん有利に
・破った場合の強制執行条項

 

法律に強い次男夫婦を相手にする場合ほど、この文書化が「命綱」になります。

母をどう説得する? その“正しい言い方”

順子さんが最も悩んでいたのは「母をどう説得するか」でした。

 

母親は次男寄りで、直接言うと反発される可能性が高い。そこで私は、以下の3つの言い方を提案しました。

 

① 「お母さんが認知症になったら、全部手遅れになるよ」

これは非常に響きます。“自分が決められるのは今しかない”という事実を優しく伝えます。

② 「父の相続で私はほとんどもらっていない。帳尻を合わせたい」

これは合理的で、母も否定できない主張です。

③ 「公正証書があれば、きょうだいが揉めずにすむ」

母の心配は“家族の揉め事”。それが防げると伝えることで、協力を得やすくなります。順子さんはこの「話し方メモ」を持ち帰り、次の家族会議で使うと話していました。

今日からできる「最初の4ステップ」

まずは難しく考えず、この4つだけで十分です。

  1. 父の相続資料の入手
  2. 平屋の評価証明書の取得
  3. 賃貸契約書のコピーを確保
  4. 公正証書に盛り込む内容を紙1枚にまとめる

 

 

 

 

曽根 惠子
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
相続実務士®

株式会社夢相続 代表取締役

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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