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「ヨシヨシ、弁当を仕入れておけばきっと儲かるだろう…」
筆者が空腹のときにコンビニで弁当を買うとしましょう。さて、なぜコンビニが弁当を売っているのでしょうか? コンビニが親切だからでしょうか?
そんなことはありません。それは、コンビニが「欲張り」だからです。「ここに店を開けば客が来て儲かるだろう」「弁当を仕入れておけば売れて儲かるだろう」と考えたから、弁当を売っているのです。
もしコンビニが欲張りでなかったら、「ここに店を出せば儲かるだろうけど、面倒だからやめておこう」「弁当が売り切れているから、仕入れれば儲かるだろうけど、面倒だからやめておこう」などと考え、筆者は弁当が買えないかもしれません。
共産主義が失敗した根本原因
昔、ソ連という国(いまのロシアとその近くの国々)が、共産主義を掲げていました。「貧富の差をなくし、平等な国を作る」という理想に燃えていたのです。素晴らしいと思った読者も多いでしょうが、実際にやってみたら失敗してしまいました。
貧富の差をなくすということは、真面目に働いてもサボっても同じ給料ということです。そうなると、皆がサボるようになり、「皆が等しく貧しい国」になってしまったのです。本来欲張りな人々に対し、「欲張ってはいけない。欲張って他人より豊かになろうとしてはいけない」といったので、人々が働かなくなってしまったのです。
「貧富の格差がゼロ」では、経済はうまく行かない
要するに、貧富の格差がゼロになってしまうと、経済がうまく行かないのです。適度な貧富の格差は必要なのです。「頑張って働けば豊かになれる」という状況が必要なのです。
その意味では、格差が大きすぎることは問題です。貧しすぎて子どもを学校に通わせることができない人がいたら、頑張って勉強して賢くなって大いに稼ごう、という子どもたちが頑張るチャンスを失ってしまうからです。
貧富の適度な差があればよい、というものでもありません。「宝くじに当たれば豊かになれる」というのでは、国民の勤労意欲は高まりません。同様に、たまたま裕福な家に生まれた人は豊かに暮らせる、というのでは、やはり勤労意欲は高まらないでしょう。筆者が相続税率の引き上げを主張しているのは、遺産が人々の勤労意欲を高めないからです。
「価格メカニズム」の重要性
「勉強したらオモチャを与える」といえば、子どもはオモチャがほしくて勉強するかもしれません。しかし、勉強しているフリをする子どもがいるといけないので、「前回より試験の点数が上がったら」という条件のほうがよいでしょう。このように、欲張りの引き出し方によって、うまく行ったり行かなかったりする場合も多いのです。
ソ連では、経済がうまくいかなかったので、「頑張って働けば褒美を与える」という制度を作りました。「大量のパンを作ったパン屋には褒美を与える」と言われたパン屋は、「不味いけれど簡単に作れるパン」を大量に作るようになったので、国民は毎日不味いパンを食べて暮らすようになったのです。「美味しいパンを作ったら褒美を与える」としたかったのですが、役人がすべてのパンを食べてみて点数を付けるのは無理ですから。
米国や日本のような資本主義経済では、「価格メカニズム」が働きますから、「美味しいパンを作れば高く売れて儲かる」と考えたパン屋が美味しいパンを作る工夫をするのですが、ソ連ではそうはならなかった、というわけです。
米国や日本では、パンの人気が落ちて麺の人気が出ると、パン屋が儲からずに麺屋が儲かるようになり、パン屋が麺屋に鞍替えするようになります。人々がほしいものが売っている状態が続くのです。
しかし、ソ連ではだれが何を作るかを政府が決めていたので、人々の好みがパンから麺に変わっても、パン屋はパン屋のままでした。そこで、パンが売れ残り、麺屋に行列ができるだけで終わったのです。
コメ不作…「強欲商人」のおかげで飢え死にを免れる!?
道徳の先生が聞くと怒りそうですが、場合によっては、強欲商人でさえも役に立つかもしれません。鎖国中の江戸時代、不作でコメが例年の半分しかとれない年があったとします。それを知った強欲商人は、コメを買い占めたかもしれません。そうなると、人々は数倍に値上がりしたコメを少しだけ買って空腹に耐えながら生活せざるを得なかったでしょう。強欲商人を恨んだに違いありません。
では、強欲商人がコメを買い占めなかったら、どうなっていたでしょうか。コメの値段は例年通りなので、人々は例年通りにコメを買って食べたでしょう。しかし、半年後、日本中のコメがすべて食べられてしまい、その後の半年間は食べるコメがなく、餓死する人が続発したかもしれません。
つまり、強欲商人の「おかげで」人々は飢え死にを免れたのかもしれないのです。心の優しい将軍が「買い占めはダメ」と命令していたら、庶民が困っていたかもしれません。
経済を考えるうえでは、「温かい心」が必要なことは当然ですが、「冷たい頭脳」も同時に活躍させなければなりません。弱者を助けようと思った政策が、かえって弱者を苦しめてしまう、という話は、経済の世界では珍しくないのです。気をつけたいものです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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