日米で鮮明になる相続税格差…日本の富裕層が海外へ逃げるワケとは【国際税理士が解説】

日米で鮮明になる相続税格差…日本の富裕層が海外へ逃げるワケとは【国際税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

日本の相続税は、明治時代の日露戦争の戦費を補うために創設されて以来、先進国のなかでも群を抜いて高い水準となった。最高税率55%にまで引き上げられ、相続人よりも国が多くの財産を受け取るケースもある。二重課税や高額税率の現状は、世界的に見ても異例であり、日本の富裕層の資産承継に大きな影響を与えている。

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日本の相続税の歴史

日本の相続税は1905年に創設された。当初は日露戦争の戦費を補う目的で、財産規模に応じた低率の課税であった。昭和期には最高税率が75%に達し、1989年には松下幸之助氏の相続で、財産2,449億円に対して相続税額は1,444億円に及んだ。このときの税収は、概算で国が6割、遺族が4割を受け取った計算になる。

 

現在の日本の基礎控除は 3,000万円+600万円×法定相続人の人数 であり、法定相続人が3人であれば4,800万円となる。これを超える部分に税率10〜55%が課される。すでに所得税等が課された財産にさらに相続税を課す「二重課税」の性格を持つことが、しばしば問題視される理由である。

アメリカの相続税とその哲学

古代エジプトやローマ時代にも相続税は存在したが、ヨーロッパでは君主が相続財産の一部を承継料として徴収する形で成立した。現在、相続税制を維持している国は50ヵ国未満で、カナダ、イタリア、オーストラリア、ニュージーランド、中国、ロシアなど多くの国では相続税は存在しない。

 

アメリカでは1916年に相続税が立法化され、現在の最高税率は40%、基礎控除額は約1,399万ドル(2025年)である。人口約3億4,700万人の国で、相続税の課税対象となるのは年間約4,000件に過ぎず、連邦歳入に占める割合は約0.7%にとどまる。

 

アメリカには独自の相続税哲学がある。鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは「金持ちのまま死ぬのは不名誉」と述べ、富裕層は資産を社会に還元すべきだと主張した。ルーズベルト両大統領も、富の再分配の観点から相続税を支持した。

 

一方で、財務長官アンドリュー・メロンは1920年代に、相続税支払いのため市場で遺産を安売りせざるを得ず、国家経済に損害を与えるとして税率引き下げを訴えた。1997年から2009年にかけてアメリカの基礎控除は約6倍に引き上げられ、オバマ政権下で復活した現在でも、課税対象は極めて限定的である。

 

さらに、アメリカでは生前贈与の非課税枠が年間 1万4,000ドルまであり、両親がいれば倍額まで可能である。これにより富裕層は効率的に資産承継でき、日本のような厳格な非上場株式評価や医療法人承継課税は行われていない。

 

2025年7月4日に成立した「One Big Beautiful Bill Act(OBBBA)」により、2026年1月1日から相続税・贈与税の基礎控除額が1人あたり1,500万ドルに引き上げられることが確定している。

日本の課題…富裕層の流出懸念

日本は先進国のなかで、富裕層に対する高額相続税を維持している数少ない国である。この「ねたみ税」とも称される課税制度は、国際的に見ても例外的であり、世界の富裕層が日本に住み続けるインセンティブを低下させている。

 

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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