すべて妻任せだった――“亭主関白”76歳男性の告白
九州で暮らすAさん(仮名・76歳)は、大学卒業後40年以上、営業職として会社員生活を送りました。昔から「男は外で稼ぐ」「女は家を守る」が信条。家庭のことは一切、妻(享年72歳)に任せてきました。
「九州男児として、男は台所に立つものじゃない。家計も家事も女の役目だと思っていました。自分は毎月、小遣いを受け取るだけ。それが当たり前でした」
その結果、光熱費の支払いも銀行口座の管理も、料理も洗濯も、何ひとつ手を出さないまま定年を迎えました。
しかし、その生活はある冬の朝、唐突に終わりを告げました。「胸が苦しい……」とつぶやいた妻は、そのまま床に倒れ、病院に着く前に息を引き取りました。診断は大動脈解離。あまりに突然の別れに、現実感すらありませんでした。
親族だけの小さな葬儀を終え、ようやく日常を取り戻そうとしたとき、Aさんは愕然としました。銀行から葬儀費用を引き出そうとしても暗証番号が分からなかったのです。通帳はあっても記帳は止まったまま。試しに誕生日を入力すると口座はロックされてしまいました。
「銀行に行くこと自体なかった。だから暗証番号すら知らなかったんです。恥ずかしかった。名義は自分だったので銀行で再設定の手続きをしたけれど、数日間は本当に不安でした」
