「今月の電気代は3,200円。もう限界です」
東京都下の団地でひとり暮らしをする安藤隆さん(仮名・78歳)は、月6万円ほどの年金で生活しています。かつては建設業に従事していたものの、自営業扱いだったため年金は少額。現在は遺族もおらず、頼れる人がいない生活を送っています。
「8月はあまりの暑さに扇風機も効かなくて…でも冷房を入れると電気代が跳ね上がるんですよ。つけたり消したりしながら、3,200円でなんとか抑えました。これでも高いと感じます」
そう言ってため息をつく安藤さん。電気代・水道代・携帯代などを差し引いた残りのお金で、食費と日用品、病院代をすべて賄わなくてはなりません。
「去年の夏は倒れかけました。軽い熱中症だったのか、くらっとして、目の前が真っ白になったんです。でも病院代を考えると、“寝てりゃ治る”と我慢してしまいました」
毎日の食事もギリギリです。夕方以降、スーパーの見切り品を狙って出かけるのが日課だといいます。
「夜8時過ぎれば、300円くらいの弁当が150円になります。それでも“高い”と感じてしまう。500円超えると、もう高級料理のような感覚です」
かつては外食や飲み会も楽しんでいた安藤さんですが、今ではスーパーの半額弁当とインスタント味噌汁が定番。多い日は、おかずを翌日に回して節約しています。
現在、安藤さんは生活保護を利用していません。理由を尋ねると、少し困った表情でこう答えます。
「まだ大丈夫かなと思っていて。手続きも難しそうだし、“まだ家あるのに”とか言われそうで、ちょっと情けない気もして……」
このような心理的なハードルは、制度利用をためらわせる要因のひとつです。必要としていても申請に至らない人が多いのが実情です。
一方で、安藤さんのように国民年金のみの受給者は珍しくありません。厚労省『令和5年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金の平均月額は5万8,000円。年金保険料の納付期間が短い場合には、老後の年金収入はさらに低くなります。
