「お金は足りてるよ、大丈夫」そう言っていた母
「ごはん、ちゃんと食べてる?」
久しぶりに電話をかけた息子・亮介さん(仮名・45歳)は、ついそんな言葉をかけていました。
72歳の母・絹代さん(仮名)は、地方の一軒家で一人暮らし。亮介さんは首都圏で働いており、なかなか帰省できずにいましたが、半年ほど前から「電気代が上がって、こたつはもう出さないことにした」と話す母の言葉に、不安を覚えていたのです。
「年金は月7万円くらいだけど、節約してるし、お金は足りてるよ」
そう口では言っていた母。亮介さんも信じていたといいます。
そして、久々の帰省。久しぶりに玄関を開けると、どこか家の中が寒々しく、湿ったような空気が漂っていました。挨拶を交わし、台所に立った亮介さんは、言葉を失います。
冷蔵庫の中は、半額シールが貼られた食パンと、賞味期限が切れた豆腐だけ。コンロの上には、アルミ鍋に入ったインスタントの雑炊の残りが、ラップもかけずに放置されていました。
「ちょうど昨日、食べすぎちゃってね。今日はもうお腹すいてないの」
母は笑ってごまかすように言いましたが、明らかに食事の内容がおかしい。キッチンに保存されていたレトルト食品は、特売のカレーや炊き込みご飯の素が数個あるだけで、野菜も肉も、ほとんど見当たりませんでした。
「水道と電気を節約するために、夜は9時には寝るの」
「お風呂は週2回。風邪引くといけないし、さっとシャワーだけ」
亮介さんは、母が語る一つひとつの言葉に胸が痛んだといいます。
調べてみると、母の生活費は年金月7万円のみ。貯金は500万円ほどあったそうですが、「将来介護が必要になったら困るから、いまは使いたくない」と、日々の出費を極限まで切り詰めていたのです。
