理想を胸に「第二の人生」をスタート
「両親は、ずっと地方暮らしに憧れていたんです。定年を迎えたら、畑仕事をして、ゆっくり夫婦で過ごすって」
そう語るのは、東京都内に住む会社員の水野亜紀さん(仮名・40歳)。彼女の両親である昭雄さん(67歳)と恵子さん(65歳)は、2年前に都内の賃貸マンションを引き払い、長野県の山あいの町へ移住しました。
移住資金には、夫婦合わせて1,200万円の退職金と貯金の一部を充てました。中古の平屋住宅(築40年)を500万円で購入し、簡単なリフォームも済ませ、生活費は年金月18万円でまかなえる見込みだったといいます。
「最初は本当に楽しそうでした。父が畑を耕して、母が地元の人とおしゃべりして…。写真もよく送ってくれて。でも、半年ほどで連絡が急に減っていって…」
そして、亜紀さんが久々に実家を訪れたのは、父の誕生日にあたる初夏の日。バスを降りて向かったその家を見た瞬間、彼女は立ち止まりました。
「庭は草が生い茂っていて、郵便受けにはチラシが溢れていたんです。家の前に軽トラックが止まっていたけど、タイヤが少し潰れていて…“あの家が、こんな姿に?”って、本当にショックでした」
中に入ると、さらに驚いたといいます。床には新聞やゴミ袋が積み重なり、キッチンには賞味期限切れの食品が散乱していたそうです。部屋の一角には、父が作りかけた棚や農具が放置されていました。
「母が『片付けようとは思っているんだけど、なんか億劫で』と…。よく見ると、母の顔色も悪く、父も目が虚ろでした。話しているうちに、二人とも気力が落ちているのがわかったんです」
