「逆風でも強い金」…イールドカーブの“常識”をも破る、金の〈底力〉
(画像はイメージです/PIXTA)
金が「戦略的資産」として位置づけられる背景には、実物需要や資産価値の上昇、長期インフレ率、そして分散投資の観点があげられます。しかし、金がイールドカーブ(米国債の利回り曲線)のさまざまな局面に対してどのように反応するのかを理解することは、戦術的な資産配分を考えるうえでも重要です。ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントによれば、現在の米国債市場の動向を見ると、年末にかけて金価格にとって追い風となる可能性があるといいます。そこで本記事では、イールドカーブのスティープ化(ブル・スティープ/ベア・スティープ)と金価格の関係性、そしてマクロ環境によって左右される金のパフォーマンスの傾向について、詳しくみていきましょう。
イールドカーブが“逆風”でも強い金
金価格は2025年も堅調を維持しています。これは、米国のイールドカーブのブル・スティープ化(短期セクターが長期セクターよりも急速に低下することによって生じる現象)によって支えられている可能性が高いといえます。
ブル・スティープ化は、金価格にとってプラスに働くことが多い一方、ベア・スティープ化(イールドカーブの長期セクターが短期セクターよりも急速に上昇する現象)は、実質利回りが上昇する可能性があるため、通常は金価格にとって逆風になると認識されています※1。
しかし、このようにイールドカーブが逆風になる環境下でも、金は良好なパフォーマンスを発揮する可能性があります。特に、財政をめぐる不透明感やインフレ期待が高まっているときには、なおさらそれが当てはまります。
中央銀行による記録的な購入実績、中国における個人の購入意欲、上場投資信託(ETF)の資産配分など、実物需要に関連する要因は現在、伝統的なマクロ要因を凌駕しており、イールドカーブがどのような状態にあるのかを把握することは、有益なことです。
イールドカーブは金にどんな影響を与える?
米国債カーブのスティープ化サイクルは、債券や経済調査の分野で広く引き合いに出されます。ここでは、ブル・スティープ化局面とベア・スティープ化局面が金に影響を与えた過去の事例を調査※2し、イールドカーブと金の関係性が、現在の高金利・高ボラティリティ環境において、どのように当てはまるかを検証しています。
米国の債券市場では、イールドカーブの傾きは通常、2年物と10年物の米国債利回りの差(2年/10年スプレッド)※3で測定されます。
イールドカーブがどれだけ凸状あるいは凹状になっているのかは、一般的に、成長期待、金融・財政政策のスタンスの変化、インフレまたはタームプレミアム効果を示唆する将来の見通しに関わる指標と考えられています。
金は、利回りを生まない「デュレーションが長期」の実物資産であり、イールドカーブの変化に対する反応は敏感であるはずです。
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ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントは、約半世紀にわたり、機関投資家、金融プロフェッショナル、そして個人投資家に、より良い成果をもたらしてきた。
インデックス運用やETF(上場投資信託)分野における早期からの取り組みを含め、同社の投資手法は、市場に裏付けられた運用ノウハウと、投資家ニーズへの継続的な対応を基盤としている。
2025年6月末時点において、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが関与する運用資産残高は5兆米ドルを超えており、60カ国以上の顧客に対してサービスを展開している。その中には、グローバル規模での戦略的パートナーシップを通じた提供も含まれ、コスト効率に優れた幅広い投資手段を提供している。ETFの運用資産総額1兆6,898.3億米ドルを含み、そのうち約1,160.5億米ドルは、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ・ファンズ・ディストリビューターズ・エルエルシー(「SSGA FD」)がマーケティング・エージェントを行っているSPDRの金の資産となっている。SSGA FDはSSGAの関連会社で、すべての運用資産残高は監査前の数値。
なお、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントは、ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社が行う資産運用関連業務のブランド名である。
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連載【ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント】金市場を徹底分析
【注釈】
※1 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※2 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点。注:分析方法については用語集を参照ください。
※3 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※4 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※5 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※6 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※7 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※8 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※9 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※10 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点
※11 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年7月21日時点
※12 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2024年12月31日時点
【用語集】
金のスポット価格
スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。
イールドカーブのレジーム分析方法の開示
金のパフォーマンスについて、米国のイールドカーブの4つの局面(ブル・スティープ化、ベア・スティープ化、ブル・フラット化、ベア・フラット化)に分類して分析しました。イールドカーブの局面とは、米国債利回りの2年/10年スプレッドの日次変化と、カーブ上における利回り変化の方向性の比較に基づいて分類したものです。各局面の始まりは、利回りの2年/10年スプレッドが局所的に反転した点(スティープ化局面ではトラフ、フラット化局面ではピーク)に固定しました。各局面の持続性を確認するために、基準値を設けています。期間は、スティープ化については最低で7営業日、フラット化については最低で5営業日、トレンドの方向を確認できる日がスティープ化で50%以上、フラット化では45%以上としました。異なる基準値を採用した理由は、フラット化局面はスティープ化局面よりもボラティリティが高く、方向性を示す動きが少ないためです。この手法は、短期的なノイズではなく、イールドカーブの傾きについて、意味のある変化を捉えることを目的としています。
ブル・スティープ化
短期金利が長期金利よりも急速に低下するため、イールドカーブの傾きが急になります。こうした状況は通常、経済状況の悪化、インフレ見通しの低下、または安全資産への逃避などにより、金融政策の転換が予想される場合に発生します。イールドカーブが「スティープ化」するとは、長期金利と短期金利の差が拡大することを意味します。
ベア・スティープ化
ベア・スティープ化は、長期金利が短期金利よりも急速に上昇する場合に発生します。こうした状況は、通常、インフレ期待の高まり、財政拡大、またはタームプレミアムの上昇によって起こります。
ブル・フラット化
ブル・フラット化は、短期金利と長期金利がともに低下するものの、長期金利が短期金利よりも急速に低下する場合に発生します。その主な特徴は、景気の悪化、ディスインフレ、デュレーションに対する世界的に旺盛な需要を示す兆候に関連しています。
ベア・フラット化
このシナリオでは、短期金利が長期セクターよりも急速に上昇することによって、イールドカーブがフラット化します。これは、FRBのタカ派的なガイダンスや金融政策の引き締めが要因となることが多いです。
実質金利
実質金利とは、実際または予想されるインフレ率を考慮した金利のことで、投資家が実際に受け取る利回りを示します。これは「名目金利」から「インフレ率」を差し引いて算出され、以下の式で表されます:実質金利 = 名目金利 − インフレ率
ターミナル・レート
FRBが利下げまたは利上げサイクルにおいて目標とする最終的なフェデラル・ファンド(FF)金利のことです。本レポートでは、FRBが利下げを開始する前のFF金利のピークを指しています。
ピーク
フラット化局面に入る前、またはスティープ化局面が終了する前の、米国債利回り2年/10年スプレッドの最高水準のことです。
トラフ
スティープ化局面に入る前、またはフラット化局面が終了する前の、米国債利回り2年/10年スプレッドの最低水準のことです。
【ご留意事項】
本稿は、投資の推奨や投資アドバイスを意図したものではなく、そのようなものとして依拠されるべきではありません。
本稿に示されている内容は2025年6月30日時点のSPDRゴールド戦略チームの見解であり、市場及び他の条件によって変更される場合があります。本稿には将来予測に関する記述と見なされる情報が含まれており、そうした内容は将来の運用成果を保証するものではなく、実際の結果や展開は予測とは大きく異なる可能性があります。
提供された情報は、投資助言に該当するものではなく、そのようなものとして依拠されるべきではありません。本情報は、有価証券の購入の勧誘または売却の申出とみなされるべきものではありません。本情報は、投資家の特定の投資目的、戦略、税務上の地位または投資期間を考慮したものではありません。ご自身の税務・財務アドバイザーにご相談ください。
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コモディティへの投資は大きなリスクを 伴うため、すべての投資家に適した投資対象ではありません。コモディティは、価格変動要因が多岐にわたり極めて価格変動が大きいことから、投資に際しては非常に大きなリスクを伴います。たとえば、市場全般の動き、実際の、または認識されたインフレ基調、コモディティ・インデックスのボラティリティ、海外情勢/景気/政治情勢の変化、金利や為替レートの変化などの要因があります。
分散投資は、利益の確保または損失を防ぐことを保証するものではありません。
過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスの信頼しうる指標にはなり得ません。
本資料は、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが作成したものをステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社が和訳したものです。内容については原文が優先されることをご了承下さい。
8248713.1.1.APAC.INST 8/31/2026