(画像はイメージです/PIXTA)

金が「戦略的資産」として位置づけられる背景には、実物需要や資産価値の上昇、長期インフレ率、そして分散投資の観点があげられます。しかし、金がイールドカーブ(米国債の利回り曲線)のさまざまな局面に対してどのように反応するのかを理解することは、戦術的な資産配分を考えるうえでも重要です。ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントによれば、現在の米国債市場の動向を見ると、年末にかけて金価格にとって追い風となる可能性があるといいます。そこで本記事では、イールドカーブのスティープ化(ブル・スティープ/ベア・スティープ)と金価格の関係性、そしてマクロ環境によって左右される金のパフォーマンスの傾向について、詳しくみていきましょう。

「スティープ化」は、景気後退のシグナル

2025年6月時点で、短期セクターの利回りは長期セクターよりも大幅に低下しています。これはFRBの利下げ期待、インフレ指標の低下、一部労働市場が軟化したうえ、根強い財政懸念が長期金利に影響を与えているためです※9

 

足元の2年/10年スプレッドは50ベーシス・ポイント(bp、1bp=0.01%)を超えており、歴史的な793日間の逆イールドカーブ状態を脱したあと、2022年2月以来の高水準となっています※10

 

過去の前例に従うのであれば、こうしたイールドカーブのスティープ化は、米国経済のリセッション(景気後退)入り、または成長率の低下を示す警戒信号と解釈できます。

ブル・スティープ化を加速させる、トランプ政権とFRBの緊張

最近、トランプ政権とFRB指導部とのあいだに緊張が高まっていることも、ブル・スティープ化傾向を加速させる要因となる可能性があります。

 

トランプ大統領がパウエルFRB議長をよりハト派的な人物に交代させると公然と発言していることで、短期利回りの低下予想が高まる一方、長期金利は財政赤字の増大によりこう着感が強まる可能性が高いです。

 

データは、特に金融緩和が予想される特定のブル・スティープ化環境において、過去に金がどれほど優れたパフォーマンスを発揮してきたかを示していますが、今年年初来の金価格の上昇(+29%)※11は記録的な現物需要を背景としたものであり、こうした伝統的なマクロ経済要因を凌駕しています。

 

中央銀行による大量購入とETFへの資金流入の力強い回復は、金価格を構造的に下支えする環境を作り出しており、より広範な市場ボラティリティに直面した際の底堅さを増幅させています(図表3)。

 

出所:ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル、2025年3月31日時点
[図表3]中央銀行による記録的な需要とETFへの資金流入の回復が金価格上昇の支援材料 出所:ICEベンチマーク・アドミニストレーション、メタルズ・フォーカス、リフィニティブGFMS、ワールド ゴールド カウンシル、2025年3月31日時点

 

米国のイールドカーブが2024年9月に逆イールド状態を脱したあと、ベア・スティープ化が始まりました。ベア・スティープ化局面は実質金利の上昇を伴うことが多く、通常は金にとって逆風とみなされます。

 

しかし、当社の最近の分析によると、実質金利は重要ではあるものの、長期的な需要要因が支配的である環境においては、影響力が低下する傾向にあります。このことは、当該期間中に実質利回りが上昇したにもかかわらず、金が堅調を維持し、5%以上上昇した理由を説明するのに役立ちます※12

 

実際、過去を振り返ると、教科書的なマクロ経済の枠組みに当てはまらない多くの局面においても、金は市場の常識に反して上昇を続け、構造的に追い風を受ける資産としての役割が強化されています。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご留意事項】をご参照ください。

 

 

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント

 

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【注釈】

※1 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※2 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点。注:分析方法については用語集を参照ください。

※3 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※4 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※5 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※6 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※7 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※8 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※9 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※10 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※11 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年7月21日時点

※12 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2024年12月31日時点



【用語集】



金のスポット価格

スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。



 



イールドカーブのレジーム分析方法の開示

金のパフォーマンスについて、米国のイールドカーブの4つの局面(ブル・スティープ化、ベア・スティープ化、ブル・フラット化、ベア・フラット化)に分類して分析しました。イールドカーブの局面とは、米国債利回りの2年/10年スプレッドの日次変化と、カーブ上における利回り変化の方向性の比較に基づいて分類したものです。各局面の始まりは、利回りの2年/10年スプレッドが局所的に反転した点(スティープ化局面ではトラフ、フラット化局面ではピーク)に固定しました。各局面の持続性を確認するために、基準値を設けています。期間は、スティープ化については最低で7営業日、フラット化については最低で5営業日、トレンドの方向を確認できる日がスティープ化で50%以上、フラット化では45%以上としました。異なる基準値を採用した理由は、フラット化局面はスティープ化局面よりもボラティリティが高く、方向性を示す動きが少ないためです。この手法は、短期的なノイズではなく、イールドカーブの傾きについて、意味のある変化を捉えることを目的としています。



 



ブル・スティープ化

短期金利が長期金利よりも急速に低下するため、イールドカーブの傾きが急になります。こうした状況は通常、経済状況の悪化、インフレ見通しの低下、または安全資産への逃避などにより、金融政策の転換が予想される場合に発生します。イールドカーブが「スティープ化」するとは、長期金利と短期金利の差が拡大することを意味します。



 



ベア・スティープ化

ベア・スティープ化は、長期金利が短期金利よりも急速に上昇する場合に発生します。こうした状況は、通常、インフレ期待の高まり、財政拡大、またはタームプレミアムの上昇によって起こります。



 



ブル・フラット化

ブル・フラット化は、短期金利と長期金利がともに低下するものの、長期金利が短期金利よりも急速に低下する場合に発生します。その主な特徴は、景気の悪化、ディスインフレ、デュレーションに対する世界的に旺盛な需要を示す兆候に関連しています。



 



ベア・フラット化

このシナリオでは、短期金利が長期セクターよりも急速に上昇することによって、イールドカーブがフラット化します。これは、FRBのタカ派的なガイダンスや金融政策の引き締めが要因となることが多いです。



 



実質金利

実質金利とは、実際または予想されるインフレ率を考慮した金利のことで、投資家が実際に受け取る利回りを示します。これは「名目金利」から「インフレ率」を差し引いて算出され、以下の式で表されます:実質金利 = 名目金利 − インフレ率



 



ターミナル・レート

FRBが利下げまたは利上げサイクルにおいて目標とする最終的なフェデラル・ファンド(FF)金利のことです。本レポートでは、FRBが利下げを開始する前のFF金利のピークを指しています。



 



ピーク

フラット化局面に入る前、またはスティープ化局面が終了する前の、米国債利回り2年/10年スプレッドの最高水準のことです。



 



トラフ

スティープ化局面に入る前、またはフラット化局面が終了する前の、米国債利回り2年/10年スプレッドの最低水準のことです。




【ご留意事項】
本稿は、投資の推奨や投資アドバイスを意図したものではなく、そのようなものとして依拠されるべきではありません。
本稿に示されている内容は2025年6月30日時点のSPDRゴールド戦略チームの見解であり、市場及び他の条件によって変更される場合があります。本稿には将来予測に関する記述と見なされる情報が含まれており、そうした内容は将来の運用成果を保証するものではなく、実際の結果や展開は予測とは大きく異なる可能性があります。
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分散投資は、利益の確保または損失を防ぐことを保証するものではありません。
過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスの信頼しうる指標にはなり得ません。
本資料は、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが作成したものをステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社が和訳したものです。内容については原文が優先されることをご了承下さい。

8248713.1.1.APAC.INST 8/31/2026

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