(画像はイメージです/PIXTA)

金が「戦略的資産」として位置づけられる背景には、実物需要や資産価値の上昇、長期インフレ率、そして分散投資の観点があげられます。しかし、金がイールドカーブ(米国債の利回り曲線)のさまざまな局面に対してどのように反応するのかを理解することは、戦術的な資産配分を考えるうえでも重要です。ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントによれば、現在の米国債市場の動向を見ると、年末にかけて金価格にとって追い風となる可能性があるといいます。そこで本記事では、イールドカーブのスティープ化(ブル・スティープ/ベア・スティープ)と金価格の関係性、そしてマクロ環境によって左右される金のパフォーマンスの傾向について、詳しくみていきましょう。

「ブル・スティープ化」は金にとって本当にプラスか?

市場コンセンサスは、米連邦準備制度理事会(FRB)による金融緩和は実物資産に恩恵をもたらすため、ブル・スティープ化局面は金にとってプラスに働くと見ています。しかし、当社の分析によると、状況はもっと複雑です。

 

・当該局面に入る前の6ヵ月間(トラフまでの6ヵ月間)は+6%

・当該局面入り後の6ヵ月間(トラフ後の6ヵ月間)は-2%

・12ヵ月間フル・ウィンドウ(当該局面に入る6ヵ月前から、終了後の6ヵ月まで)は+3%

 

出所:ブルームバーグ・ファイナンス L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標にはなり得ません。インデックスのリターンは運用によるものではなく、いかなる手数料または経費の控除も反映されていません。インデックスのリターンには、インカム、利益および損失のすべての項目と、該当する配当金およびその他インカムの再投資が反映されています。記載されている指数のパフォーマンス実績は、比較目的のために提示されています。特定の投資によるパフォーマンスを表しているとみなすべきではありません。
[図表2]ブル・スティープ化期間中の金の平均リターン(1989~2025年) 出所:ブルームバーグ・ファイナンス L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点。過去のパフォーマンスは将来のパフォーマンスの信頼できる指標にはなり得ません。インデックスのリターンは運用によるものではなく、いかなる手数料または経費の控除も反映されていません。インデックスのリターンには、インカム、利益および損失のすべての項目と、該当する配当金およびその他インカムの再投資が反映されています。記載されている指数のパフォーマンス実績は、比較目的のために提示されています。特定の投資によるパフォーマンスを表しているとみなすべきではありません。

 

これらの結果を個別に見ると、金はブル・スティープ化局面で良好なパフォーマンスを示すという想定に疑問が投げかけられています。しかし、当社のデータによると、政策ショックが発生したいくつかのブル・スティープ化局面では、金は力強いパフォーマンスを示しています。

 

・2006年の政策金利がターミナル・レート(利上げの最終地点)に到達し、ブル・スティープ化局面が始まった時期(2006年8~9月)※4では、12ヵ月間フル・ウィンドウ(当該局面に入る6ヵ月前から終了6ヵ月後まで)における金のリターンは+19%でした。興味深いことに、金はブル・スティープ化局面が始まる前の6ヵ月間に6%上昇するなど、実際のブル・スティープ化局面の前に将来を見据えた動きを示す傾向にあります。これは、金の高い流動性と、幅広くグローバルなマクロ経済に焦点を当てる投資家層の存在に起因する可能性が高いといえます。

 

・2008年の一部の期間と世界金融危機のピーク時には、リターンは小幅なプラスあるいはマイナス圏にまで落ち込みました。その後、2009年から2011年にかけて、実質利回りが急低下し、量的緩和が始まったため、金は大きく反発しました。

「ベア・スティープ化」局面でも底堅さを見せた金

一方、ベア・スティープ化局面は、実質金利の上昇により、金にとって不利な状況と見なされることが一般的※5ですが、こうした想定が常に当てはまるわけではありません。2005年から2021年までの9つのベア・スティープ化局面において、金は驚くほどの底堅さを示しました。

 

予想に反する動きを見せた局面は以下のとおりです。

 

・2005年10月、インフレ率の上昇と世界的なコモディティ価格の高騰により、ベア・スティープ化局面に入った後、金は+24%急騰しました※6

・2011年初め、インフレ・リスクとドル安が名目利回りの方向性よりも大きな影響を与えたため、金はフル・ウィンドウ期間で+40%近く上昇しました※7

・2020年5月、市場は新型コロナウイルス・ショックを受けて、財政・金融両面の積極的な景気刺激策を織り込んだため、金はベア・スティープ化局面に入る6ヵ月前から終了6ヵ月後までの期間に+22%上昇しました※8

 

最終的に、これらの事例は、イールドカーブの形状は重要であるものの、背景状況がそれよりもさらに重要である可能性を示唆しています。

 

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【注釈】

※1 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※2 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点。注:分析方法については用語集を参照ください。

※3 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※4 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※5 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※6 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※7 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※8 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※9 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※10 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年6月30日時点

※11 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2025年7月21日時点

※12 ブルームバーグ・フィナンシャル L.P.、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント、2024年12月31日時点



【用語集】



金のスポット価格

スポット市場における金の価格。国際的通貨コード「XAU」で表記される、1トロイオンス当たりの金価格。米ドル建て。



 



イールドカーブのレジーム分析方法の開示

金のパフォーマンスについて、米国のイールドカーブの4つの局面(ブル・スティープ化、ベア・スティープ化、ブル・フラット化、ベア・フラット化)に分類して分析しました。イールドカーブの局面とは、米国債利回りの2年/10年スプレッドの日次変化と、カーブ上における利回り変化の方向性の比較に基づいて分類したものです。各局面の始まりは、利回りの2年/10年スプレッドが局所的に反転した点(スティープ化局面ではトラフ、フラット化局面ではピーク)に固定しました。各局面の持続性を確認するために、基準値を設けています。期間は、スティープ化については最低で7営業日、フラット化については最低で5営業日、トレンドの方向を確認できる日がスティープ化で50%以上、フラット化では45%以上としました。異なる基準値を採用した理由は、フラット化局面はスティープ化局面よりもボラティリティが高く、方向性を示す動きが少ないためです。この手法は、短期的なノイズではなく、イールドカーブの傾きについて、意味のある変化を捉えることを目的としています。



 



ブル・スティープ化

短期金利が長期金利よりも急速に低下するため、イールドカーブの傾きが急になります。こうした状況は通常、経済状況の悪化、インフレ見通しの低下、または安全資産への逃避などにより、金融政策の転換が予想される場合に発生します。イールドカーブが「スティープ化」するとは、長期金利と短期金利の差が拡大することを意味します。



 



ベア・スティープ化

ベア・スティープ化は、長期金利が短期金利よりも急速に上昇する場合に発生します。こうした状況は、通常、インフレ期待の高まり、財政拡大、またはタームプレミアムの上昇によって起こります。



 



ブル・フラット化

ブル・フラット化は、短期金利と長期金利がともに低下するものの、長期金利が短期金利よりも急速に低下する場合に発生します。その主な特徴は、景気の悪化、ディスインフレ、デュレーションに対する世界的に旺盛な需要を示す兆候に関連しています。



 



ベア・フラット化

このシナリオでは、短期金利が長期セクターよりも急速に上昇することによって、イールドカーブがフラット化します。これは、FRBのタカ派的なガイダンスや金融政策の引き締めが要因となることが多いです。



 



実質金利

実質金利とは、実際または予想されるインフレ率を考慮した金利のことで、投資家が実際に受け取る利回りを示します。これは「名目金利」から「インフレ率」を差し引いて算出され、以下の式で表されます:実質金利 = 名目金利 − インフレ率



 



ターミナル・レート

FRBが利下げまたは利上げサイクルにおいて目標とする最終的なフェデラル・ファンド(FF)金利のことです。本レポートでは、FRBが利下げを開始する前のFF金利のピークを指しています。



 



ピーク

フラット化局面に入る前、またはスティープ化局面が終了する前の、米国債利回り2年/10年スプレッドの最高水準のことです。



 



トラフ

スティープ化局面に入る前、またはフラット化局面が終了する前の、米国債利回り2年/10年スプレッドの最低水準のことです。




【ご留意事項】
本稿は、投資の推奨や投資アドバイスを意図したものではなく、そのようなものとして依拠されるべきではありません。
本稿に示されている内容は2025年6月30日時点のSPDRゴールド戦略チームの見解であり、市場及び他の条件によって変更される場合があります。本稿には将来予測に関する記述と見なされる情報が含まれており、そうした内容は将来の運用成果を保証するものではなく、実際の結果や展開は予測とは大きく異なる可能性があります。
提供された情報は、投資助言に該当するものではなく、そのようなものとして依拠されるべきではありません。本情報は、有価証券の購入の勧誘または売却の申出とみなされるべきものではありません。本情報は、投資家の特定の投資目的、戦略、税務上の地位または投資期間を考慮したものではありません。ご自身の税務・財務アドバイザーにご相談ください。
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コモディティへの投資は大きなリスクを 伴うため、すべての投資家に適した投資対象ではありません。コモディティは、価格変動要因が多岐にわたり極めて価格変動が大きいことから、投資に際しては非常に大きなリスクを伴います。たとえば、市場全般の動き、実際の、または認識されたインフレ基調、コモディティ・インデックスのボラティリティ、海外情勢/景気/政治情勢の変化、金利や為替レートの変化などの要因があります。
分散投資は、利益の確保または損失を防ぐことを保証するものではありません。
過去のパフォーマンスは、将来のパフォーマンスの信頼しうる指標にはなり得ません。
本資料は、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントが作成したものをステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズ株式会社が和訳したものです。内容については原文が優先されることをご了承下さい。

8248713.1.1.APAC.INST 8/31/2026

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