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50年ローンは「詰み」なのか?
「老後に借金を持ち越したくない」という直感は、数字が裏づけます。
日本の労働環境の平均を見ると、航さんの不安は他人事ではありません。厚生労働省の調査では、退職給付制度がない企業は約25%。規模が小さくなるほど制度の未整備が目立ちます。仮に制度があっても、平均退職金は下がる傾向があり、全員が潤沢にもらえる時代ではありません。航さんの「退職金ゼロ」は珍事ではなく、統計の範囲内です。
税制面の追い風も、細かい条件があります。住宅ローン減税は年末残高の0.7%が控除されますが、2025年新築は省エネ基準を満たさないと原則対象外。満たす場合でも限度額13年の期間制限があり、減税だけで老後の残債を解消する性質の制度ではありません。
「つまり、50年で月を軽くしても、老後手前で重くなる。退職金の後押しも期待しにくい」
筆者はFPとして、航さん夫妻に率直に伝えました。2人は黙ってうなずきましたが、表情は沈んだままです。
「でも、詰みじゃありません。順番を変えれば、道は開けます」
家計改善の軸
改善の軸は3つです。家計の安全装置、金利の守り、時間を味方にする返済戦略。順番に整えます。
一つ目は、家計の安全装置です。
「まず、生活防衛資金を6ヵ月分。次に、毎月1万円ずつの『繰上げ返済原資』専用積立。積みあがったら年1回だけ、元金にドンと充てる」
「少額でも、ですか?」
「少額だからこそ、早く始めます。元金を早期に削るほど、将来の利息は大きく減ります。退職金に頼らず、自前の“ミニ退職金”を毎年つくるイメージです」
二つ目は、金利の守りです。
「変動は怖いけれど、固定にすぐ切り替えると月返済が上がる。どう判断するの?」
「目安を二つ。返済比率(手取りに占めるローン返済の割合)を20〜25%に抑えること。もう一つは、変動と固定の金利差。差が1%未満で、将来の収入見通しが堅いときは、固定化を検討。差が大きいときは、当面は変動で“原資づくり”を優先。保険として、繰上げ返済で元金を縮めつつ、固定の見積もりを毎年取り、“いつでも動ける”状態にします」
ネット銀行の金利は2025年にかけてじわりと上昇しました。外部環境は変わります。「見直しを年に一度」は、コストゼロの強力な防御策です。
三つ目は、時間を味方にする返済戦略です。
「金利0.6%・50年のままなら、65歳残債は約1,680万円。ここから年20万円を10回、できる年に前倒しで元金に充てるだけで、65歳残債はおおよそ200万〜250万円程度縮みます。さらに、40代で一度“期間短縮型”の繰上げを入れて、残期間を50→45年に詰めれば、老後の前に“借金の壁”がぐっと低くなる」
「やれる気がしてきた」と里奈さんが笑いました。
「もう一歩。家の価値を落とさない工夫です。小さな戸建ては、維持が価値をつくります。屋根・外壁・水回りの修繕計画を見える化。家は“負債”ではなく“資産兼居住サービス”です。丁寧に使えば、出口(売却・賃貸)も持てます」
