富裕層にとって「移住」は単なる居住地の変更にとどまりません。移住先や在留資格の選択次第で、相続税・贈与税・出国税などの負担が大きく変わる場合があります。移住により、思わぬ資産減少の可能性もあることから、移住前にエステートプランニングを策定又は見直すことが必要となります。
外国から日本に移住する場合
日本の相続税・贈与税の課税範囲(国内財産のみに限定されるか、国外財産も含むか)は、以下の要素によって決まります。
- 被相続人(贈与者)および取得者が日本に住所を有するか
- 過去の居住年数
- 日本国籍の有無
- 外国居住者の場合は在留資格の種類
日本の相続税・贈与税の最高税率は55%であり、特に超富裕層にはこの最高税率が適用されるケースがほとんどです。近年は中国から日本へ移住する富裕層が増加していますが、彼らにとって「相続税・贈与税が存在しない国」から「最高55%課税される国」への移住は大きな衝撃となり、説明のたびに不満を表明される依頼者も少なくありません。
このため、外国から日本に移住する際には、事前に家族間での財産移転や資産組み換えなど多様なエステートプランニングが必要です。
なお、日本国籍を有していない移住者で、入管法別表1に定める「就労系ビザ」を持つ場合には、国外に居住する外国籍の者から相続・贈与を受ける際、その国外財産は課税対象外となります。したがって、どのように就労系ビザを取得・維持するかも重要な検討課題となります。
これらのプランニングは、移住元国と日本双方の法務・税務が関わるため、両国の専門家と連携し、矛盾のない慎重な設計が求められます。
また、ビザの種類によっては審査に数か月かかることもあるため、移住希望の少なくとも1年以上前から専門家に相談し、リスクの把握を始めることが望ましいでしょう。さらに、移住元国で永住権放棄や国籍喪失を伴う場合には、出国税の有無や移住後の所得税なども事前に確認する必要があります。
シティユーワ法律事務所
パートナー弁護士/弁護士(第二東京弁護士会)/ニューヨーク州弁護士
専門は国内相続・国際相続・エステートプランニング・事業承継等のプライベートウェルス全般及び労働・労務管理。Chambers HNW (Private Wealth)及びLegal 500 (Private Client)では、継続的に高い評価を受賞。
信託法学会のほか、STEP(Society of Trust and Estate Practitioners(信託及び相続に関する国際実務家団体))、TIAETL(The International Academy of Estate and Trust Law(相続及び信託に関する国際法律家協会))及びACTEC(The American College of Trust and Estate Counsel(全米信託相続弁護士協会))に所属し、国際相続に関する専門家向け・金融機関向けセミナー講師及び上記国際団体でのスピーカー経験多数。著作として、日本語では、『国際相続の法務と税務<第2版>』(税務研究会出版局)、『財産を減らさない分散管理のポイント100』(財経詳報社)、『国別でわかる!海外信託による相続の税務と法務』(第一法規)等。
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連載税務当局が監視する、超富裕層の国際相続をふかぼりする