(※写真はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が進むなか、子のいない高齢夫婦や「おひとり様」の遺言・終活に関する相談が急増しています。相続人がいない、または相続人に財産を託したくないという事情から始まる相談は、遺言作成にとどまらず、寄付や財産管理、介護や見守り、さらには死後の手続にまで広がります。とりわけ富裕層の場合、資産の多様性や規模の大きさから課題は一層複雑化します。

子がいない・おひとり様問題

この10年で増えているのが、子のいない高齢夫婦や、近親者のいない方(いわゆる「おひとり様」)からのご相談です。あえて「遺言まわりのご相談」と申し上げるのは、法定相続人がいない、あるいは相続人がいても財産を託したくないという事情から、まず遺言作成を依頼されるケースが多いためです。

 

ところが実際には、そこから生前贈与や寄付、見守りや財産管理、介護や老人ホームの選択、認知症への備え、リビングウィル(尊厳死宣言)、信託契約、緊急連絡先や医療機関対応、さらには葬儀や墓じまいにまで、ご相談は広がっていきます。これらは富裕層・非富裕層を問わず共通の傾向です。

 

これらの問題には、弁護士が遺言や信託契約などの法律文書やスキームを作成することで解決できるものもあれば、そもそも法制度や社会インフラの整備から取り組まなければならないものもあります。

 

ただし重要なのは、まずご自身が「どのようにしたいのか」を考え、その意思をもとに行動することです。子のいないご夫婦やおひとり様の多くは、この「自分から動き出さなければならない」という課題を理解しており、なかには10年から20年という長期にわたって準備を進める方もいらっしゃいます。

 

一方で、十分な準備がないまま問題が発生すると、支えてくれる家族がいない分、事態は家族のいる方以上に深刻化しやすい傾向にあります。今回は、このような環境にある方々が直面しやすい特有の法務上の課題について、ご紹介したいと思います。

遺贈寄付・清算型遺贈にまつわる税務の問題

子のいない高齢者ご夫婦は、遺言において受遺者として配偶者を指定することが一般的です。一方で、遺言者の死亡時に配偶者がすでに他界していた場合の予備的受遺者として、兄弟姉妹などの親族を指定する方もいますが、近年は第三者である公益団体や学校法人などへの寄付を希望される方が増えています。

 

また、おひとり様の場合、法定相続人がいなければ財産は国庫に帰属するため、やはり第三者への遺贈や寄付を検討されるケースが多く見られます。

 

遺言によって財産を法人に寄付したり、法定相続人以外に遺贈したりする場合、その移転財産は所得税や相続税の課税対象となります。しかし、寄付を受けた法人が公益法人等である場合、法人税法上、受贈益には課税されないため、財産を取得した法人自体には相続税や法人税は課税されません。

 

もっとも、法人に遺贈する財産が株式や不動産などキャピタルゲインを伴う資産である場合には、譲渡所得税の課税対象となります。ただし、国や地方公共団体等を寄付先とする場合は、譲渡所得税は課されません。

 

さらに、公益社団法人や非営利型法人など、公益を目的とする事業を行う法人が寄付先となる場合でも、①遺贈が公益の増進に寄与すること、②遺贈財産が2年以内に公益目的事業に用いられること――など一定の要件を満たし、国税庁長官の承認を得た場合には、国や地方公共団体への寄付と同様に譲渡所得税は課されません。

 

しかし、寄付を受け取る側は、不動産や株式といった現物資産の遺贈を好まないことが多いため、遺贈寄付を行う場合、キャピタルゲインを伴う財産が含まれているときには、遺産を換価し、その代金を各団体に遺贈する方法が選択されることがあります。

 

ここで留意すべきは、法定相続人がいる場合、財産を取得しない法定相続人であっても、相続税や譲渡所得税の申告・納税義務を負う点です。つまり、財産を受け取らないにもかかわらず申告・納税義務だけを負担することになるため、そのための事前の手当てが必要となります。

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