プロベートとは?
米国に不動産や金融資産を所有している日本居住の日本人が死亡した場合、これらの資産の相続に際しては、裁判所による「プロベート(Probate)」と呼ばれる手続きが必要になる場合があります。
プロベートとは、英米法系諸国で相続が発生した際、遺産を管理・清算するために裁判所が関与する手続きをいいます。現地の裁判所への申立てには通常弁護士が必要となり、時間と費用がかかります。
プロベートの手続きでは、裁判所が遺言のある場合は遺言の有効性を確認し、遺言執行者を指定します。遺言がない場合も裁判所が遺産を管理する遺産管理人を指定します。
遺言執行者・遺産管理人(あわせて「人格代表者」)には、裁判所から遺産管理権限を付与した「遺産管理状」が発行されます。人格代表者はこの遺産管理状をもって、被相続人の債務を支払い、税金を申告し、残余財産の相続人または受遺者に分配・移転手続きを完了します。
なお、プロベートは州によって手続きが異なり、通常1年以上かかります。また、プロべ―トにかかる現地弁護士の費用は、遺産に応じたコミッション報酬の場合もありますが、その多くはタイムチャージを採用し、シンプルなケースであっても、数百万単位のコストを覚悟した方がよい場合もあります。
親族内等に人格代表者の候補者がいなければ、人格代表者も雇用する必要があるので、その分コストもかかります。日本という渉外的な要素が含まれる場合、時間やコストはさらにかかることとなります。
したがって、米国ではプロベートを避けることがエステートプランニングの鉄則となります。もっとも、米国に資産を有する日本居住の日本人のなかで、このプロベート回避の重要性を意識されている人は少数派といえます。
プロベート回避のための手段
1. 国内資産とする
プロベート回避のための簡単な手段としては、米国の資産を保有しないという方法があります。米国の金融口座を閉鎖し、日本に資産移転をしたり、米国の不動産を売却したり、売却益を日本に送金したりという方法です。相続人や受遺者が米国に居住していない場合など、資産を米国で運用する必要性がない人にはこの方法をお勧めしています。
2. 生存者受取権付きの共有形態を利用する
共同名義口座
日本では単独名義の金融口座しか開設することはできませんが、米国では単独名義だけでなく共同名義口座(joint account)を開設することができます。
共同名義口座は、2名以上の複数名義で1個の口座を保有するもので、口座の名義人であれば誰でも資金の引き出しが可能です。さらに生存者受取権(right of survivorship)が付いている場合は、共同名義者の1名が死亡したとしても、その権利が生存共同名義者に移転することになるため、相続が発生してもプロベートは不要です。
生存者受取権付の共有形態
共同名義口座以外にも、米国には生存者受取権付きの共有形態として、ジョイントテナンシー(joint tenancy)という、共有者1名の死亡時にその持分権が消滅して他の生存共有権者に持分が均等に拡張する共有形態もあります。これにも生存者受取権が付いているため、共有者のうちの1名が死亡しても相続が発生してもプロベートは不要となります。
そのほか、夫婦間でのみ認められる生存者受取権の付いている独特の共有形態(tenancy by entirety)もあります。
3. 受取人指定の財産にする
死亡時受取人指定口座(POD銀行口座)
米国の銀行では、口座名義人の死亡時の受取人を指定をすることが可能な死亡時受取人指定口座(Payable on Death Account 、以下「POD銀行口座」)を開設することでプロベートを回避することが可能です。POD銀行口座は、金融機関によっては米国非居住者の受取人指定ができない場合もあるため事前に確認が必要です。
死亡時移転先指定口座(TOD証券口座)
POD銀行口座と同様に、証券口座でも死亡時の受取人を指定できる「死亡時移転先指定口座(Transfer on Death Account)」を開設することで、プロベートを回避できる場合もあります。
非居住者を移転先として指定することを認めない証券会社もありますし、移転先指定が可能だとしても、名義変更手続きの過程で被指定者に「メダリオン署名保証(Medallion Signature Guarantee)」が求められることがあります。プロベートを経ない場合は、このメダリオンの取得が難しいという状況に陥ることがあります。
米国の株式の所有形態は、株主名義で登録されるものから、証券会社名義で登録されるものまで様々です。したがって、自身のエステートプランニングに沿った株式所有の形態を選択し、その承継計画を立てることが必要となります。銀行口座の場合よりも一歩踏み込んだ慎重なプランニングが求められる点に留意すべきです。
死亡時移転先指定証書(TOD証書―不動産)
POD口座と同様に、不動産でも死亡時の受取人を指定できる仕組みがあります。死亡時移転先指定証書(Transfer on Death Deed)を登記所に登録しておけば、相続が発生してもプロベートを経ずに不動産の名義移転が可能です。この制度を採用している州としては、ハワイ州やカリフォルニア州などがあります。
もっとも、外国不動産については、そもそも移転先に指定する人が、外国不動産を管理・運用・処分することが可能かという点をまず考慮されるべきでしょう。
4. 信託
信託名義にすれば、信託財産についてはプロベートの対象となる遺産(estate)ではなくなるので、プロベートを回避することが可能となります。プロベートのある英米法系諸国で信託が活用されているのはこのためです。
米国でプロベートを回避するために、エステートプランニングとして遺言と信託を作成したのに、プロベートが必要になったと相談に訪れる人がいます。遺言の対象財産が米国にある場合、基本的にはプロベートが必要となります。
米国では通常、すべての遺産を信託に移転する「注ぎ込み遺言(pour-over will)」と信託(trust)を組み合わせてエステートプランニングを作成します。生前に信託へ移転した財産は信託財産となりプロベートの対象外となりますが、遺言の対象となる財産が残っている場合は、少額などの例外を除きプロベートが必要となります。
プロベートの対象となる遺産(estate)の行き先が単独の信託となれば、手続きは大幅に簡略化されます。しかし、相続発生時にプロベート対象の遺産が存在する以上、プロベート自体は避けられません。したがって、プロベートを完全に回避したい場合は、個人名義の資産を持たず、生前にすべての米国資産を信託名義に移すか、受取人指定を行うなどして、プロベート対象外の資産とするプランニングが必要です。
5. 法人名義で所有する
富裕層の多くは、節税や資産運用対策として資産管理会社を活用していますが、法人名義で資産を保有することもプロベート対策の1つとなります。
ただし、当該法人が米国法人である場合、米国法人の株式を個人で保有してはいけません。米国法人の株式は米国資産として扱われ、プロベートの対象となってしまうためです。
さらに、法人名義とすることには税務上の問題も生じるため、実行にあたっては税務専門家に確認することが望まれます。
酒井 ひとみ
シティユーワ法律事務所
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