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「ジュエリーの購入、有名店なら安心」と考えるワケ
私たちは、自分のことはよく知っていますが、他人のことはよく知りません。聞いても教えてくれないかもしれないし、嘘をつかれているかもしれませんから。これをむずかしい言葉で「情報の非対称性」と呼びます。
嘘発見器が進歩すればわかるようになるのかもしれませんが、それまでは相手が嘘をついているか否かわからないために問題が生じます。そのため、さまざまな工夫が必要です。
ジュエリーは必ず有名店で買うと決めている人は多いでしょう。それは「有名店は正直だ」と信頼しているからです。では、なぜ有名店は信用できるのでしょうか? それは、彼らが「失うもの」を持っているからです。
彼らは顧客に信頼されているから、比較的高い利益を稼ぎながら商売ができているわけです。彼らが短期的な利益を考えるなら、粗悪品を高い値段で売ればよいのです。客は信じて買うでしょう。しかし、そんなことをすれば、いつかはバレます。バレたときには客の信用を一気に失い「客の信頼によって未来永劫稼ぎ続けることができる恵まれた立場」を永遠に失ってしまうのです。それが嫌だから彼らは粗悪品を売らないし、それを理解しているから客は彼らを信頼するのです。
旅行先で、全国チェーンの飲食店を利用する人も少なくありません。地元の店が「安くておいしい」と宣伝していても本当か否かわからないので、リスクを避ける人がいるからです。
銀行が貸出金利を「他行より高くしたがらない」ワケ
銀行は、ほかの銀行より貸出金利を高く設定したがりません。金利を高く設定すると客が逃げてしまうから…ということもありますが、それは単に金利を稼ぐチャンスを失うということにすぎません。さらに重要なのは「ほかの銀行に融資を断られた借り手ばかり集まってくる」ということなのです。返済能力が低い借り手ばかり集まると、貸出元本を失うリスクが高まります。それを避けたいのです。
生命保険の場合、加入者から事前に健康状態を告知してもらいます。それが嘘か否かを見抜くのは大変ですが、あとから嘘だったことがわかれば、保険金を支払わなければよいわけですから、それほど大きなリスクではないのかもしれませんね。もっとも、健康状態の告知を必要としない会社があったり、嘘の告知であっても保険金を支払うという会社があったりすれば、その会社には不健康な人ばかり集まるでしょうから、大変なリスクを抱えることになるでしょう。
自分が正直であることを認めてもらうのはむずかしい
反対に、自分が正直であることを信じてもらうのも難しいことです。たとえば冤罪の当事者が自分の無実を訴えても、なかなか信じてもらえなかったりするわけです。
英語検定試験というものがあります。受験料を払って受けに行く人が多いのはなぜでしょうか。それは、就職試験の時に「私は英語が得意です」と言っても信じてもらえないからですね。採用試験科目に英語を加えるとコストがかかるので、企業は就活生の英語能力がわかりません。そこで、英検の合格証書を見せることで、自分の英語能力を企業にアピールすることができるのです。
社債を発行する企業が「格付け」を取得する場合がありますが、それも同じことです。投資家に向かって「我が社は返済能力が高いです」と申告しても、簡単には信じてもらえないからです。
企業がメインバンクから経理部長を受け入れている理由のひとつは「わが社は粉飾決算をしていません」ということを信じてもらうことかもしれません。銀行側にとっても借り手が粉飾していないことを知ることができるので、お互いにとってメリットがあるわけですね。
筆者は「メルカリ」をやったことがありませんが、個人間売買において、売り手と買い手がお互いに「相手が嘘をついていない」と信じるようなシステムを作るのは大変だったと思います。
中古車購入、個人的な取引で「粗悪な中古車」を避ける方法
中古車の性能は、持ち主にはよくわかりますが、買い手にはなかなかわかりません。だからプロの中古車ディーラーが活躍するわけですが、仮に中古車ディーラーが存在しなかったらどうなるのでしょうか。
「100万円で中古車を買いたい」と宣伝すると、価値0円から100万円までの中古車が集まってくるでしょう。性能がわからないので、どれか1台を適当に選ぶと、よほど運が良くない限り性能の低い中古車を掴むことになります。集まってきた中古車の平均的な価値は50万円なのですから。
「だから中古車売買はむずかしいのだ」と習った時は納得しましたが、その後よい方法を思いつきました。
集まってきた中古車オーナーに向かって「申し訳ありません。予算不足なので、99万9,999円しか出せません」とアナウンスすればよいのです。そうすれば、100万円の価値がある中古車の持ち主は帰ろうとするでしょうから、帰ろうとする人々から中古車を買えばよいのです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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