(※写真はイメージです/PIXTA)

世界の半導体供給を支える台湾は、TSMC(台湾積体電路製造)を筆頭に国際的な産業ネットワークを構築し、経済的な存在感を高め続けています。一方で、国際取引の活発化とともに、税制面では租税回避のリスクが指摘される場面も増えてきました。台湾政府は、こうした問題に対応するためにタックスヘイブン税制やPEM(管理支配地)税制の導入を進めていますが、依然として制度の運用面では課題を抱えています。

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台湾の経済概況

台湾の2023年のGDPは7,560億ドルで、アジア地域では中国、日本、インド、韓国、インドネシアに次いで第6位となっています。日系企業の海外拠点数では、中国、タイ、インド、韓国、ベトナム、インドネシア、フィリピンに次いで第8位(1,496拠点)であり、シンガポール(1,113拠点)よりも上位に位置しています。


台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は、ソニーグループ、デンソー、トヨタ自動車が出資する合弁会社JASMの工場を熊本県に建設しました。同工場は2024年12月から出荷を開始しています。トランプ政権が追加関税を発表する前に、TSMCは米国で1,000億ドルの追加投資方針を明らかにしており、アップルやエヌビディアの主要サプライヤーとしても知られています。


一方、他の企業動向として、業績が悪化している日産自動車に対して、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)が親会社として買収に乗り出す動きを見せています。当初、日産はホンダとの経営統合を模索していましたが、交渉は不調に終わり、鴻海による動きが本格化しています。なお、鴻海は2016年にシャープを買収しています。

台湾の税制

台湾の税制は、以下の通り国税と地方税に分かれます。

 

国税(直接税):法人税(税率20%)、個人所得税(最高税率40%)、相続税・  贈与税(10%・15%・20%)

国税(間接税):営業税(税率5%)、物品税など

地方税(直接税):地価税(税率1~5.5%)、土地増値税(土地の値上がり益に対して20~40%)

地方税(間接税):印紙税など

(1)管理支配地基準(Place of Effective Management:PEM税制)

台湾では、内国法人とは主たる事務所が国内にある法人を指し、その法人には全世界所得に対して課税が行われます。これに対し、PEM税制とは、以下のような基準により法人を台湾内国法人とみなし、課税する制度です。

 

・経営上の重要な意思決定の場所が台湾である

・取締役会または株主総会の議事録の作成あるいは保管場所が台湾である

・台湾において主要な事業活動が行われている

 

この「管理支配地基準」は、もともと英国で古くから採用されていたもので、19世紀から20世紀にかけて、海外植民地に法人を設立しながら、ロンドンなど英国本土で意思決定を行っていた企業に対して、英国の内国法人として課税した事例に由来します。現在の英国では、「管理支配地主義」と「設立準拠法主義」が併用されています。

 

台湾では、こうした租税回避行為を防止する目的で、2016年7月27日の税制改正によりPEM税制が創設されましたが、2025年現在においても施行には至っていません。台湾政府としては、低税率国に法人を設立しつつ、実際の経営管理を台湾で行うケースを想定して、課税逃れへの対策として導入を目指しているようです。

 

(2)タックスヘイブン税制・移転価格税制・ミニマム・タックス制度

タックスヘイブン税制は、PEM税制と同じ2016年7月の税制改正により創設され、2023年から施行されています。

 

移転価格税制については、それよりも古く2004年から施行されています。これは、多国籍企業によるグループ内取引における価格操作を通じた利益移転を防止する制度です。


また、ミニマム・タックス制度は、2006年1月1日より施行されています。これは、特定の租税優遇措置により税負担が著しく軽減された場合でも、最低限の税額を納付させる制度です。同様の制度はかつて米国にも存在していましたが、現在は廃止されています。

台湾の租税条約

2024年末時点で、台湾が締結している租税条約の数は35本です。台湾は中国政府とも租税条約に署名していますが、この条約は発効していません。一方、韓国とは2021年に租税条約に署名し、この条約は2024年1月から適用されています。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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