(※写真はイメージです/PIXTA)
墓じまい…効率優先か、母の思いを優先か
都内・IT企業課長の佐藤健一さん(45歳・仮名)。昨年のゴールデンウィーク、1年以上ぶりの帰省になりました。実家では、父が亡くなってからずっと母・光子さん(78歳・仮名)が1人で暮らしています。
心配がなかったわけではありません。しかし、転職をしてからというもの、ひたすらに忙しかった健一さん。
「盆も正月もないような感じで……。帰省するタイミングがありませんでした」
それでも昨年、帰省したのは、2つの懸念事項を解消したいと思っていたから。1つは、光子さんの今後。もう1つは先祖代々の墓の管理です。光子さんは現在、月額12万円の年金で生活をやりくりしています。実家から離れた山の中腹にある墓所は、高齢の光子さんが1人で手入れに行くにはあまりに負担が大きく、健一さんは「墓じまい」をして、都内の納骨堂へ移すのが最善だと考えていました。
「母さん、墓じまいの計画を立ててきたんだ。今のうちに整理しておけば、母さんも楽になるし、俺も将来の心配をしなくて済む。費用は全部俺が持つから、どうだろう?」
夕食の席で、健一さんは用意してきたタブレット端末を広げ、解体費用の見積もりや新しい納骨堂の資料を提示しました。しかし、光子さんは箸を止めたまま、一度も画面に目を向けませんでした。
「あの墓にはお父さんも入っているの。私が元気なうちは、あそこを守りたい。私もあそこに入りたい。勝手に決めないでちょうだい」
光子さんの言葉に対し、健一さんは仕事の商談と同じように、淡々と正論を重ねました。
「母さんの年金じゃ、今後の管理費を出し続けるのは厳しいだろう。俺もいつまで仕送りができるか分からないし、誰も行かなくなる墓を残すのは無責任だ。感情論じゃなくて、現実を見てよ。俺の言う通りにするのが一番効率的なんだ」
この「効率的」という言葉が、光子さんの逆鱗に触れたのでしょう。静かに、しかし明らかに怒りのこもった声で「あんたは、お金さえ出せば何でも自分の思い通りになると思っている。私がどんな思いであの墓を守っているかわかろうともしない」と言い、「もういい。今日限りで、あんたとの縁を切らせてもらう。二度とこの家の敷居を跨がないで」と席を立っていってしまったといいます。
そして翌朝、健一さんが目を覚ますと、玄関には自分の荷物がまとめられていました。光子さんは部屋から出てくることはなく、健一さんは逃げるように実家をあとにしたそうです。
「あのあと、何度も電話をかけ謝りました。あまりに私が傲慢だったか……。深く反省しています」
