(※写真はイメージです/PIXTA)

2025年4月、英国の税制に大きな転換点が訪れます。長年、世界の富裕層を惹きつけてきた「ノンドム制度」や「送金課税」といった優遇措置が廃止され、ロンドンの魅力に陰りが見え始めました。秋の予算でキャピタルゲイン税も増税となり、英国は今や“富裕層流出国ランキング”で世界のトップに。この税制改正は、税収増を狙う一方で、国際的な富裕層の移住戦略にどのような影響を与えるのか。シンガポールやUAEといった他国の動きも含め、グローバルな「節税戦争」の行方が注目されます。

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ロンドンに富裕層が集まった理由

かつて、ニューヨークではなくロンドンに日本の高所得芸能人らが移住していたことがありました。税制上、彼らは日本の非居住者であり、英国の居住者となります。


この場合、日本国内で得た所得に対しては20.42%の課税(住民税なし)となります。一方で、英国の所得税は最高税率45%ですが、日本の住民税に相当する税がないため、相対的に英国居住のほうが有利になる場合がありました。


しかし、節税を目的とするなら、住民税がなく、所得税の最高税率が24%であるシンガポールに居住した方が有利です。


ではなぜロンドンが選ばれていたのか。芸能活動の拠点として舞台公演が多く、必要な文化的情報が得られるという側面に加えて、英国には「ノンドム(non-UK domiciled individuals)」という特例税制が存在していたことが大きな理由と考えられます。

2024年10月の秋予算による税制改正

2024年7月5日、労働党のキア・スターマー首相が就任しました。労働党政権は同年の秋予算において、増税方針を打ち出しました。


英国には、株式などの譲渡益に対する所得税の規定がない代わりに、キャピタルゲイン税が存在します。今回の改正により、2024年10月30日以降、税率は以下のように変更されました。

 

旧税率10% → 新税率18%

旧税率20% → 新税率24%

 

また、英国在住の富裕層に適用されていた「送金課税制度」が2025年4月6日から廃止され、通常の居住者課税が適用されるようになります。


この改正により、富裕層の流出が加速。2025年の富裕層流出ランキングでは、中国を抑えて英国が1位となりました。一方、日本では中国人による都心不動産の購入が報道され、対照的な動きが見られます。

節税効果のあった送金課税制度

前述のシンガポールでは、居住者が国外源泉所得を国内へ送金した場合、その金額が国内源泉所得と合算され課税されます。この制度の起源は、旧宗主国である英国の税制にあります。


日本の非永住者課税にも同様の「送金課税」が存在しており、これも英国の影響を受けたものと考えられます。


改正前の英国では、ノンドムに対して「海外勤務救済(Overseas Workday Relief)」という制度が適用されていました。この制度により、恒久的住居(ドミサイル)を外国に有する英国居住者は、国外所得に対して英国で課税されないという優遇がありました。


2025年4月6日の改正以前は、国外所得または収益が2,000ポンド以上、もしくは英国へ送金した場合に限り、確定申告または送金課税の選択が可能でした。

送金基準課税の支払い

国外所得の免税を享受するため、次の条件を満たす者には送金基準課税という代替税の支払い義務がありました。

 

過去9課税年度のうち、少なくとも7課税年度英国に居住していた場合:年額3万ポンド(約600万円)

過去14課税年度のうち、12課税年度英国に居住していた場合:年額6万ポンド(約1,200万円)

 

前述の「日本非居住者・英国居住者」は、3万ポンドを支払うことでこの送金課税制度を選択できました。しかし、改正後は全世界所得課税となるため、節税のメリットは消滅します。

他国の類似制度と今後の移住先

英国と同様の制度として、スイスの「一括税制度」が挙げられます。これは、スイスでの居住家屋の賃貸価値の5~7倍の金額を納税すれば、国外所得に課税されないという仕組みです。


しかし、スイス国内でもこの制度を廃止する州が増加しており、富裕層はより優遇措置のある国へ移動しつつあります。英国から流出した富裕層が今後向かう先としては、所得税・相続税が存在しないUAE(アラブ首長国連邦)や、トランプ減税が残る米国などが注目されています。

 

矢内一好

国際課税研究所首席研究員

 

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