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心配する様子を見せながらも農業継承を喜んでくれたじいちゃん
僕は、子どもの頃から農業に決していいイメージを持っておらず、なんなら農家にならずに済むように進路を決めていました。そのため、それを180度ひっくり返して「農家をやります!」と宣言することは即決だったわけではなく、それなりに時間を要しました。僕にとってその決断は、今までの人生を否定することであり、プライドを捨てることでもあったからこそ、悩み、迷いました。
じいちゃんの米づくりを継ぐと決めたときの家族の反応はさまざまなものでした。一番意外だったのは、父かもしれません。子どもの頃に「勉強を頑張らないと、農業しかできなくなるよ」と僕に刷り込んでいた父。農業法人の社長さんがわが家の経営を心配して話を聞きに来てくださったときに、数字に強くないじいちゃんだけでは心許ないと、父も同席していました。やり方によってはチャンスがあるという社長さんの話を聞いたことで、父の農業に対する考え方が変わったようです。
父も僕と一緒で、大きな収益にはならないかもしれないけれど、食べていくのに困らない程度の運営はできるという感覚になっていました。とはいえ、自分自身は農業を継がずに就職していますし、農業の不利な面もよくわかっていることから、中立的な立ち位置にいました。本人が望むなら継いでもいいし、継がないという気持ちもわかるから何も言わない、という感じで僕の話を聞いてくれました。
母は、どちらかというと反対派でした。じいちゃんが苦労しているのを近くで見ていますし、2023年に農業を続けるために借金をしなければならないという状況に直面したときには、やはり思うところがあったようです。僕が継ぐか継がないかを迷っているときから、一貫して「儲からない仕事なんて絶対にやるな」というスタンスでした。きっと農業を継ぐことに反対しているというよりは、子どもが自ら苦労する道に進むかもしれない状況を黙って見ていられない、と心配する気持ちが強かったのだと思います。
じいちゃんに関しては、うれしいと思ってくれたみたいです。僕が農業を継ぐと決めたタイミングで、実際に継ぐとなった場合に、経営の受け渡しまでの流れをどういうふうに進めていくのかといった具体的な話を、父とじいちゃんと3人でしたことがありました。その会議の前に、両親には農業を継ぎたいと話していたので、父からじいちゃんに「孫(僕)が継ぐって言ってるんだけど、どうだ?」と切り出したのです。普段はあまり多くを語らないじいちゃんですが、このときには、うれしいと言葉にしてくれて、僕も絶対に立て直したいと強く思いました。
