追徴課税160万円は誰が払う?
山本家に届いたのは約160万円の追徴課税の通知書。その一枚の紙が、穏やかだった家族の関係を静かに壊し始めました。
「この160万円、どうするんだ?」
口火を切ったのは、長男でした。彼は世帯年収700万円、住宅ローンと2人の子どもの教育費に追われ、日々の生活に余裕はありません。
「父さんの遺産から払うのが筋でしょう」とほかの兄弟がいうと、長男の不満が堰を切ったように溢れ出します。
「そもそも、一番そばにいた母さんが気づかなかったなんておかしいじゃないか! それに父さんは、俺たちが家の頭金で苦しんでいたときも、1,000万円も隠して助けてくれなかったんだぞ! あのとき少しでも援助があれば、どれだけ楽になったか……」
その言葉をきっかけに、互いへの不信感が生まれます。「兄さんこそ、父さんから援助してもらったお金を隠してるんじゃないか?」「あなただってもらっていたでしょう」。かつては笑い声が響いた実家は、疑惑と詰問が渦巻く場に変わってしまいました。
資産の申告漏れ…「現金手渡しならバレない」?
銀行などにお金を預けるのではなく、自宅などにまとまった現金を保管しておくことを「タンス預金」といいます。
実は数年前にも、子どもたちに多額の現金を数回贈与していた山本氏は、「現金の手渡しであれば税務署にばれない」 と信じていたようです。山本氏の思惑では、このタンス預金もまた、「生前贈与」として適切に申告することなく、子どもたちに分配するつもりだったのかもしれません。
しかし、税務署は国税総合管理システム(KSK)という専用のシステムによって、過去10年分の収入や通帳等の財産を把握することが可能です。国税庁と税務署は、給与や確定申告のデータが登録された納税者情報を管理しており、そこに記録されている所得状況と預金状況のデータを照らし合わせ、不透明な預金の使い道を調査します。
また、税務署は本人の承諾なしに預金口座を調査することが可能です。この調査は、対象者本人の家族の口座も調査対象になることもあります。山本氏の子どもたちは、数年前に父親から受け取った現金を、それぞれの銀行口座に預金していました。
このように、蓄積された膨大な過去データを照らし合わせることで、税金の申告漏れは高確率で発覚します。特に、相続税の税務調査は他の税目と比べ調査が入る確率が高く、申告漏れの発覚率も高いことで知られています。
申告漏れが発覚すると、後に支払う税金にペナルティが課されるうえ、その記録も残ってしまうため、資産の申告漏れ・隠ぺいは絶対に避けるべきです。意図的な無申告等の悪質なケースと判断された場合、重加算税という最も重いペナルティを課されてしまうこともあります。
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