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タワマンの一室、驚きの光景
70代後半になったころ、Aさんのいとこが、終活でお互いが元気なうちに会おうとAさんの家を訪れます。夫にも挨拶したいといいますが、「誰のこと?」と答えるAさんに、いとこは言い知れぬ違和感を覚えます。「一緒に住んでいるのでしょう?」と立て続けに質問しても、Aさんは呆けた様子で、満足な答えが返ってきません。
家の最奥にある、夫の部屋と思われる扉をノックしても返答はなく、ドアの隙間から漂う異様な悪臭に、脳が危険信号を発するような強烈な拒否反応が起こりました。重くなったドアをこじ開けた先に広がっていたのは、信じがたい光景。いとこは思わず悲鳴をあげました。大量の物が天井まで積み重なり、その奥には、ゴミの山と化した部屋の一角で虚ろな目でぼうっと座り込むAさんの夫の姿。長年の無関心と孤独が招いた、まさに「家の一室のみのゴミ屋敷化」でした。
Aさんに話を聞くと、「夫はいない」といいます。出て行って一人で暮らしているとのこと。異変を感じたいとこはAさんの息子に連絡をとり、二人はすぐに病院へ。Aさんからは精神的な病と認知症が、夫からは同様の病状に加え、深刻な脱水症状が発見されました。もし発見が遅れていたら、命の危険もあった状況でした。
タワマンのコンシェルジュは、Aさんに声をかけると「部屋でのんびりしている」「夫は出て行った」と答えていたため、まさかこのような事態になっているとは夢にも思わなかったといいます。
孤独死をしないためにも…
日本の平均寿命は延び続け、人生100年時代といわれています。一方で、ずっと健康を保ち続けられるわけではありません。厚生労働省の「健康寿命の令和4年値について」の「令和4年平均寿命と健康寿命の推移」では、健康寿命とのあいだには男性で8.49年、女性で11.63年の開きがあります。
認知症は種類や進行度合いによって現れ方は異なります。また症状は、環境によっても変化します。Aさん夫婦は、本人が知らず知らずに進行していたのでしょう。さらに夫婦関係の悪化が精神的なダメージとなり、症状を悪化させていたのかもしれません。
今後は、息子とも相談し、お互い施設へ移ることになりました。核家族化や人間関係が気薄になった現代において、孤独死はもはや特別なケースではありません。高齢世帯には定期的な見守りや、異変に気づくことができる仕組みがあれば、多くの悲劇は回避できる可能性があります。
〈参考〉
厚生労働省:健康寿命の令和4年値について
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001363069.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表
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