「何かあるたびに息子を呼ぶ生活にはしたくない」
「今のうちに引っ越したほうがいいと思うんだ」
夫の和夫さん(仮名・72歳)がそう切り出したのは、自宅の雨どいの修理を業者に依頼したことがきっかけでした。
和夫さんは妻の美智子さん(仮名・72歳)と、築34年の戸建てで暮らしていました。
二人とも長く会社員として働き、厚生年金に加入。現在の年金は夫婦合わせて月約37万円です。退職金や現役時代からの預貯金も合わせて約6,000万円あり、住宅ローンも完済していました。
生活に困っていたわけではありません。ただ70歳を過ぎてから、家を維持するために人を呼ぶ機会が増えていました。
庭木の剪定、雨どいの修理、エアコンの交換。前年には給湯器も故障しました。
「故障するたびに、どこへ電話すればいいのか調べて、見積もりを取って……。今はできるけど、80歳を過ぎても同じことができるかなと思ったんです」
美智子さんにも気になることがありました。寝室は2階にあり、洗濯物を持って階段を上る生活です。スーパーへ行くにも車を使っていました。
長男の裕介さん(仮名・45歳)は車で40分ほどの場所に住んでいます。
「何かあったら、いつでも呼んでよ」
裕介さんはそう言っていました。しかし夫婦は、それを前提にした老後にはしたくないと考えていました。
「息子には息子の仕事も家庭もあります。電球ひとつ、家の修理ひとつで呼ぶようになる前に、暮らし方を変えたかったんです」
夫婦が探したのは、駅に近いマンションでした。最終的に選んだのは、駅から徒歩5分ほどの高層マンションです。
コンシェルジュが日中常駐し、24時間有人管理。共用部分の管理は管理会社が担い、宅配ボックスもあります。提携する家事代行やハウスクリーニングなどを紹介してもらえるサービスもありました。
スーパー、ドラッグストア、内科も徒歩圏内です。
購入価格は約6,500万円。戸建ては約5,200万円で売却できたため、差額と諸費用を預貯金から支払いました。
国土交通省『令和5年住生活総合調査』では、高齢者世帯が住まいや居住環境について重視する項目として、「高齢者への配慮」や「日常の買い物などの利便」が挙げられています。高齢期の住まいでは、住宅内部だけでなく、日々の生活を徒歩圏内でどこまで完結できるかも重要になります。
