前回は、不動産の高値売却のために貫きたい「売主本位」の姿勢について見ていきました。今回は、不動産売却の成否を分ける「情報戦」で勝つ方法を説明します。

情報戦の対処法は「なるべく黙っていること」?

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」というのは有名な孫子の言葉ですが、不動産売却の現場にもあてはまります。買主候補を攻略すべき相手と考えるなら、その人物や会社の事情を知ることは売却交渉で優位に立つための非常に有効な手段です。

 

売主がもっとも知りたいのは「いくらまでなら出す気があるのか」です。さすがに予算を教えてくれる買主はいませんが、買主の事業の状態、業界の景気、購入した不動産をどのように利用するつもりなのかなど、さまざまな情報を集めることで、ある程度の想像はできるようになります。逆に言えば、売主の情報が買主に渡ればそれだけ買主が有利になります。

 

前述したように売主自身の経済状態や売却に対する差し迫った事情がもし買主に知れたら、交渉の主導権は買主の側に渡ってしまうのです。売主にとっては「いかに自分の情報を出さずに、買主の情報を得るか」が、高値売却の大きなポイントと言えます。

 

不動産売却の成否は「情報戦」の勝ち負けにかかっていると言っても過言ではありません。しかしながら、多くの人は仕事の中で情報戦を経験することはないため、どのように振る舞えばうまく情報が引き出せるのか、そのテクニックは一朝一夕には身に付けられません。

 

一方、不動産の売買に慣れている業界の人は情報戦に長けており、何気ない日常会話の中から売主の情報を引き出すことができるのです。

 

その場合の対処法としてもっとも簡単なのは「なるべく黙っていること」です。言葉を発しなければ情報を与えずに済むだけでなく、買主から情報を引き出しやすくなります。同席している相手が沈黙すると、多くの人は場を持たせるために口を開きますから、買主が話す日常的な話題の中から売却条件につながる情報を探ることができます。

土地を購入する目的や思惑が異なる「三種類の買主」

買主は主に次の三種類に分けられ、それぞれ土地を購入する目的や思惑が異なります。

 

【不動産買取再販事業者】
不動産買取再販事業者は売主からいったん土地を購入し、デベロッパーやエンドユーザーなどに売却することで利益を上げる事業者です。不動産をそのまま売却することもありますが、造成工事を行ったり細かく分割したりすることにより、不動産の価値を高める「加工」を得意とする事業者もいます。

 

「加工」に長けた事業者は専門知識と経験に照らして、不動産が持つさまざまな可能性を考慮し、ターゲットとなる買主に対してどのような加工がもっとも適切かを見極めることが可能です。価格が低く査定された不動産を買主にとって魅力のある不動産や土地に「加工」することができるので、市場価格よりかなり高い値段で不動産買取ができるケースも多々見られます。

 

自社買取なので判断が速く、仲介事業者と協力するなど柔軟な対応ができるのも特徴です。仲介事業者は利益の上限が売却価格の3%に限定されているため、情報を囲い込む傾向がありますが、買取再販事業者は利益の幅を自社の工夫により拡大できるので、仲介事
業者と適切に情報をやりとりしながらスピーディーに対応することが可能です。

 

【デベロッパー】
デベロッパーは、土地を購入して戸建て住宅の分譲やマンション建設などを行う事業者です。多くの場合、不動産や土地を購入する時点で利用計画が決まっているため、その計画において十分な利益を確保できる金額の範囲でしか土地を仕入れることができません。また、利便性や土地の形など事業に合う物件しか購入しないので、買主候補として期待できる物件は限定されます。

 

【エンドユーザー】
自身が使用する目的で不動産や土地を購入する買主です。購入した土地に家を建てて居住したい人や、新しく工場やお店を建てて事業をしたい人などがこれにあたります。価格や条件に関する考え方にはそれぞれの事情により大きな幅があります。たとえば家を建てたい人なら、その土地が気に入れば「相場の2倍でもいい!」と考えるかもしれません。

 

一般の人にはそれほど魅力がない立地でも「親と近居できる場所だから」など個別のニーズに合致するケースもあります。事業展開を計画している人についても同じです。「古くからの馴染み客が多いエリアだから」「取引先に近いから」など、買主ごとの動機により購入予算を積み増しすることも珍しくありません。

 

ただし、エンドユーザーの多くは不動産取引については素人なので、対応には手間がかかります。買主がプロであれば不動産や土地の詳細を自分で調べて理解してくれますが、不動産に詳しくないエンドユーザーにはその能力がありません。売主自身が不動産や土地の詳細を調べてわかりやすく説明を重ねる必要があるため、売却にかかる労力は多大です。

本連載は、2016年8月16日刊行の書籍『経営者のための事業用不動産「超高値」売却術』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

経営者のための 事業用不動産「超高値」売却術

大澤 義幸

幻冬舎メディアコンサルティング

事業が悪化し経営苦に陥った中小企業経営者の切り札「不動産売却」。できるだけ高値で売却して多額の負債を返済したいと考えながらも、実際は買手の〝言い値″で手放せざるを得ないケースが多い。しかし、売れないと思っていた…

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